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スイス尊厳死を選んだ日本人はいる?2024年統計・渡航事例と法制度を徹底解説

黒岩 雅也 黒岩 雅也 • 更新: • 公開: • 読了約 20 分
目次

2026年11月現在、スイスで自殺ほう助を受けた日本人の事例は実際に報告されている。スイスの自殺ほう助団体ディグニタス(DIGNITAS)が公表した統計によると、2024年の支援件数は世界全体で280人。加えて、日本に居住する人の利用実績も公式統計に記録されている。ただし、居住国別の数字は国籍別の数字とは異なるため、両者を区別して読む必要がある。

実際にスイスへ渡った日本人男性の事例や、渡航後に最終判断を変えた日本人女性の報道をたどると、単純に「海外なら安楽死できる」という話ではないことが分かる。スイス刑法115条の考え方、自殺ほう助と積極的安楽死の違い、医師の倫理指針、日本の刑法との関係、費用や家族への通知など、制度の実態を2026年の情報に基づいて整理する。

【結論】スイスで尊厳死を選んだ日本人はいる?2024年の統計から実態を検証

スイス尊厳死日本人

結論からいえば、スイスで自殺ほう助を受けた日本人の事例は存在する。日本語で取材・報道されたケースもあり、単なるインターネット上の噂ではない。

ディグニタスの2024年実績は280人

ディグニタスが2025年4月8日に公表した2024年の活動報告では、医師の関与を伴う自殺ほう助の実施件数は280人だった。同団体の会員数は2024年末時点で14,996人であり、会員のうち実際に自殺ほう助を利用する人は3%未満と説明されている。

ここで注意したいのが、会員数と利用者数の違いだ。ディグニタスへの入会者が全員、自殺ほう助を希望しているわけではない。団体の活動には終末期の選択肢に関する相談、患者の権利に関する活動、自殺予防、緩和ケアなども含まれている。

日本在住者の数字と日本国籍の数字は一致しない

ディグニタスが公開する国別統計には、居住国を基準とした会員数や自殺ほう助の実施件数が掲載されている。2024年末時点で、日本在住の会員は138人だった。

ただし、この138人は日本在住の会員数であって、日本人の利用者数でも、実際に亡くなった人数でもない。

加えて、1998年から2025年までの自殺ほう助実施件数を居住国別に集計した公式資料では、日本居住者の累計は13人と記録されている。この数字も国籍ではなく居住地に基づく集計だ。

2026年11月時点で確認できる最新の年次統計は2025年までのデータであり、2025年のディグニタス全体の実施件数は263人となっている。

つまり、2024年の280人という数字を「日本人が280人利用した」と解釈するのは誤りである。日本人の実態を考える際には、国籍、居住地、会員登録、実際の利用という4つの区分を混同しないことが大切だ。

【日本人の渡航事例】ディグニタスやライフサークルを利用した人々の経緯

日本人のスイス渡航事例を調べると、ディグニタスだけでなく、ライフサークル(LifeCircle)という別の団体も登場する。この2団体を混同すると、個別事例や統計の理解を誤ることになる。

2015~2016年にはディグニタスで日本在住者3人の事例

2017年4月22日、朝日新聞社の報道媒体「withnews」は、ディグニタスへの取材結果を公表した。

それによると、2015年に日本在住者1人、2016年に2人の計3人が同団体の自殺ほう助を受けていた。

興味深いのは、この3人全員が日本国籍だったわけではない点だ。ディグニタス側の回答では、日本で生まれた人は1人で、残る2人は日本生まれではなく、別の国籍だったとされている。

当時の報道では、性別、年齢、病状、具体的な死亡日時などは明らかにされなかった。これは、居住地別統計だけから個々の利用者の国籍や人生背景まで推測することができないことを示している。

2021年にスイスで亡くなった日本人男性「ヨシさん」

日本人の渡航事例として特に知られているのが、スイスの公共メディアSWI swissinfo.chが2021年9月24日に報じた日本人男性のケースだ。

記事で「ヨシさん」と紹介された男性は、東日本に住む40代前半の会社員だった。2016年ごろから身体機能の低下が現れ、運動ニューロン疾患の疑いを指摘されていた。ALSに似た症状が進行していたものの、ALSの確定診断を受けていたわけではない。

人工呼吸器による延命を選ぶ人を否定するのではなく、自分自身の生き方について考えた末に、スイスでの自殺ほう助を選択した人物として紹介されている。

重要なのは、ヨシさんが利用したのはディグニタスではなく、ライフサークルだったという点である。

SWI swissinfo.chは渡航の経緯や本人の思いを取材し、最期の時間まで報道した。実名や詳細な個人情報を広く公開することなく、本人の選択と背景を伝えた事例として知られている。

スイスまで渡航したものの、最終判断を変えた日本人女性

もう一つ注目したいのが、2021年10月15日に報じられた「くらんけさん」という仮名の日本人女性のケースだ。

九州地方で暮らしていた彼女は、幼少期から神経系の難病を抱え、長期にわたる治療を経験していた。身体の自由が大きく制限された生活の中で、スイスのライフサークルによる自殺ほう助を検討していた。

2021年夏には実際にスイスへ渡航したが、最終的には家族への思いや自身の気持ちを受け止め、実施を思いとどまった。

この事例が示しているのは、渡航したことや一定の医学的評価を受けたことが、その後の結果を確定させるわけではないという事実だ。本人の意思は変わり得るものであり、その判断を尊重することも自律性の一部である。

日本人の事例と団体の関係を整理

時期 団体・関係者 確認された内容 事例の意味
2015年 ディグニタス 日本在住者1人の実施が報道された 居住地別の利用実績
2016年 ディグニタス 日本在住者2人の実施が報道された 3人中、日本生まれは1人
2021年9月 ライフサークル・ヨシさん 日本人男性がスイスで自殺ほう助を受けた 本人への取材を伴う実例
2021年10月 ライフサークル・くらんけさん 日本人女性が渡航後に最終判断を変えた 本人の意思変更を示す事例
2024年 ディグニタス 世界全体で280人が利用 団体の年間実績
2025年 ディグニタス 世界全体で263人が利用。日本居住者の累計は13人 2026年時点で確認できる最新の年次集計

このように、実際の報道事例と公式統計を組み合わせると、日本人のスイス渡航は現実に存在する一方、すべての事例がディグニタスによるものではないことが分かる。

【制度の仕組み】スイスの自殺ほう助と安楽死は何が違う?

スイスの尊厳死を理解するうえで、最初に整理しなければならないのが「自殺ほう助」と「安楽死」の違いだ。日本の報道では両者が同じ意味で使われることもあるが、法律上は重要な区別がある。

自殺ほう助は本人が最終的な行為を行う制度

自殺ほう助とは、本人が自らの意思で死を選択する際に、第三者が一定の支援を行うことを指す。

スイスで認められる自殺ほう助では、本人に判断能力があり、本人自身が最終的な行為を行うことが法律上の重要な条件となる。

第三者が本人に代わって死をもたらす行為を実施する場合は、同じ扱いにはならない。

積極的安楽死は第三者が直接死をもたらす行為

積極的安楽死とは、医師などの第三者が本人の依頼を受け、直接的な行為によって死をもたらすことをいう。

スイスでは、本人から依頼があった場合であっても、第三者が直接死をもたらす行為は刑法114条などの処罰対象となる。したがって、スイスで認められている自殺ほう助を、そのまま積極的安楽死と呼ぶのは正確ではない。

間接的安楽死と消極的安楽死も区別する必要がある

加えて、終末期医療では次の2つの概念も使われる。

間接的安楽死:苦痛を緩和する医療行為を行い、その副作用として生命が短くなる可能性がある場合を指す。治療の主目的は苦痛の軽減である。

消極的安楽死:患者の意思や医療上の判断に基づき、延命措置を開始しない、あるいは中止することを指す。

スイス連邦司法省の2026年3月5日付の解説でも、積極的安楽死、自殺ほう助、間接的安楽死、消極的安楽死は区別されている。

「スイスでは安楽死が合法」という一文だけでは、どの行為が認められ、どの行為が犯罪となるのかが伝わらない。法律を理解するには、行為の主体と本人が最終的な行為を行うかどうかを確認する必要がある。

【法律比較】スイス刑法115条と日本の刑法202条はどう違う?

スイスと日本の制度の最大の違いは、自殺ほう助に関与した第三者の行為をどのように評価するかにある。

スイス刑法115条は利己的な動機による自殺ほう助を処罰する

スイス刑法115条は、自殺を教唆したり、実行を援助したりする行為について、利己的な動機がある場合に処罰する規定だ。

利己的な動機で自殺を教唆・援助し、本人がその後に自殺を実行したり、実行を試みたりした場合、5年以下の自由刑または罰金刑の対象となる。

裏を返せば、利己的な動機がなく、本人に判断能力があり、本人自身が最終的な行為を行う場合には、一定の条件下で自殺ほう助が処罰されない仕組みになっている。

ただし、スイスには自殺ほう助のすべての手続きを定めた独立の連邦法が存在するわけではない。刑法、麻薬法、医師の職業倫理、支援団体の自主規制などが関係している。

日本の刑法202条は自殺関与や同意殺人を処罰対象とする

日本の刑法202条は「自殺関与及び同意殺人」を定めている。

他人を教唆・幇助して自殺させた場合や、本人の嘱託・承諾を受けて殺害した場合には、処罰の対象となる。

2025年6月1日から施行された拘禁刑への変更を反映した2026年時点の条文では、法定刑は6か月以上7年以下の拘禁刑となっている。

つまり、日本では本人が望んでいるという事情だけで、第三者による自殺ほう助が合法になるわけではない。

スイスと日本の制度比較

スイス:刑法115条により、利己的な動機による自殺ほう助を処罰する。一定の条件を満たす場合には、非利己的な自殺ほう助が認められる。

日本:刑法202条により、自殺の教唆・幇助や同意殺人に関与した者を処罰する。スイスのような自殺ほう助の制度は設けられていない。

この違いが、日本国内ではなくスイスで自殺ほう助を受ける日本人が存在する背景の一つとなっている。

【医師のガイドライン・費用・家族】スイス尊厳死の条件と現実的な課題

スイスでは刑法115条だけを見て、誰でも自由に自殺ほう助を受けられると考えるのは正しくない。実際には医師による医学的・倫理的な判断や、支援団体の独自基準が大きく関係する。

医師が確認する4つの医学的・倫理的条件

スイス医科学アカデミー(SAMS)の医療倫理指針では、自殺ほう助を倫理的に正当化できるか判断する際、主に次の4項目が重視される。

  • 判断能力:本人が自分の状況や選択の意味を理解し、判断できること。
  • 自己決定:本人の意思が自律的であり、外部からの圧力によって形成されたものではないこと。
  • 耐え難い苦痛:医学的に定義できる重い症状や機能障害に伴う苦痛があること。
  • 代替手段の検討:緩和ケアなどの選択肢が検討され、適切ではない、または本人が受け入れないと判断されていること。

これらは単なる書類上のチェック項目ではない。本人の意思が長期的に熟慮されたものか、身体的・精神的な状況に問題がないか、周囲から不当な圧力を受けていないかを含めて検討される。

SAMSの指針では、原則として少なくとも2回の詳細な面談を、2週間の間隔を空けて行うことも求められる。判断能力と自己決定については、医師である必要はないものの、独立した第三者による確認も必要とされている。

また、医師には自殺ほう助を実施する義務がない。本人の希望を真剣に受け止めることと、医師自身が実施に同意することは別の問題である。

ディグニタスの費用はどれくらいか

ディグニタスが公式サイトで公表している料金表では、準備に関する会費、医師の診察、実施に伴う費用、葬送や行政手続きに関する費用が区分されている。

公表料金の主な内訳は次のとおりだ。

  • 準備に関する特別会費:4,000スイスフラン
  • 医師との面談など:1,000スイスフラン
  • 実施に関する特別会費:2,500スイスフラン
  • 火葬など葬送に関する費用:2,500スイスフラン
  • 行政手続きの代行費用:1,000スイスフラン

同団体が示す通常の前払い額は、葬送や行政手続きの扱いによって7,500~11,000スイスフラン。いずれも付加価値税は別となる。

この金額には、航空運賃や滞在費などの渡航関連費用は含まれない。また、準備費用を支払ったからといって実施が保証されるわけでもない。

経済的な事情に応じて会費の減額・免除が認められる場合もあるが、これは個別の判断によるものだ。

家族への通知義務はあるのか

家族への通知は、スイスの制度を考えるうえで見落とされやすい論点である。

スイス刑法115条そのものには、家族の同意や事前通知を自殺ほう助の成立要件とする規定はない。一方、ディグニタスは公式の家族向け案内で、本人の意思決定に家族や親しい人を早い段階から関与させることを推奨している。

同団体は、家族や友人が本人との別れの時間を持てることや、希望すれば最期に立ち会えることを重視している。これは団体の倫理的な考え方であり、法律上の家族同意義務とは区別しなければならない。

なお、家族への通知とは別に、公的機関への報告義務がある。SAMSの説明によると、医師による処方は関係する州当局に30日以内に報告され、自殺ほう助による死亡は不自然死として直ちに届け出られる。関係当局による必要な調査も行われる。

【2026年最新】自殺ツーリズムの実態とスイス制度が抱える問題

スイスが国外居住者を受け入れていることから、外国人が自殺ほう助を求めて渡航する現象は「自殺ツーリズム」と呼ばれることがある。

しかし、この表現には批判もある。本人の長年にわたる病気や苦痛、家族との関係、医療制度上の事情を、単なる旅行という言葉で表現することには問題があるためだ。

渡航すれば必ず認められるという誤解

最も大きな誤解は、スイスへ行けば希望する人が誰でも自殺ほう助を受けられるという考え方だ。

実際には、判断能力、本人の意思、医学的な状況、医師の倫理的判断、団体の基準などが関係する。外国から渡航したことや、費用を支払ったことだけでは結果は決まらない。

2021年に報道されたくらんけさんの事例は、本人がスイスに到着した後でも意思決定が変わり得ることを示している。

自殺ほう助の一般化が弱い立場の人に与える圧力

スイス医科学アカデミーは、自殺ほう助が社会的に一般化することで、特定の人々が早すぎる死を選ぶよう圧力を感じる可能性を指摘している。

例えば、自分が家族の負担になっている、社会保障や医療資源を消費していると感じる人が、周囲の期待を誤って受け取り、死を選ぶ方向に追い込まれる危険性がある。

これは本人の自己決定を尊重することと、社会的な圧力から本人を守ることが、必ずしも簡単に両立しないという問題である。

2026年も積極的安楽死は合法化されていない

2026年3月5日付のスイス連邦司法省の解説でも、第三者が直接死をもたらす積極的安楽死は、刑法111条、113条、114条などにより処罰されると説明されている。

自殺ほう助についても、刑法115条を中心とする法的枠組みと、医師の職業倫理や支援団体の自主規制が併存している。

つまり、2026年になっても「スイスでは安楽死が全面的に認められている」という状況にはなっていない。

日本で考えるべきなのは死ぬ権利だけではない

日本人のスイス渡航事例から浮かび上がるのは、法律の違いだけではない。難病患者や重度の障害を持つ人が、どのような医療・介護・福祉サービスを利用できるのかという問題も関係している。

終末期の緩和ケアだけでなく、長期的な在宅医療、障害福祉、介護者への支援、心理的なケアなど、本人が生きるために必要な選択肢を確保できているかが問われる。

死を選ぶ自由について議論するなら、同時に、生き続けるための支援が十分に提供されているかも検証しなければならない。

ディグニタス自身も2024年の活動報告で、本人が自らの人生の最終段階について決定する権利を行使するために、スイスまで渡航しなければならない状況をなくすことを目標として掲げている。

【スイス尊厳死日本人】に関するよくある質問(FAQ)

Q1:スイスで尊厳死を選んだ日本人は実際にいる?

A1:いる。2021年には、ライフサークルの支援を受けてスイスで亡くなった日本人男性「ヨシさん」の事例がSWI swissinfo.chで報道された。また、ディグニタスについても日本在住者の利用実績が公表されている。

Q2:ディグニタスの2024年の280人は日本人の人数?

A2:違う。280人は2024年に同団体が支援した世界全体の人数である。日本在住者の会員数138人という数字も別の統計であり、実際の利用者数とは異なる。

Q3:スイスで自殺ほう助を受ける際、家族の同意は必要?

A3:スイス刑法115条には家族の同意を要件とする規定はない。ただし、ディグニタスは家族や親しい人を意思決定に早くから関与させることを推奨している。また、死亡時には公的機関への報告と調査が行われる。

まとめ:スイス尊厳死をめぐる日本人の実態と今後の課題

スイスで自殺ほう助を受けた日本人の事例は、過去の報道と公式統計から確認できる。2024年のディグニタスの支援実績は世界全体で280人であり、日本在住者の会員数や過去の利用実績も公表されている。

一方、日本人男性ヨシさんの事例はライフサークルによるものであり、ディグニタスと混同してはならない。また、スイスへ渡航した後に最終判断を変えた日本人女性の事例も存在する。

制度面では、スイス刑法115条が利己的な動機による自殺ほう助を処罰する一方、本人の判断能力と自己決定、医師の倫理的判断などが重要な役割を果たしている。日本の刑法202条とは根本的な考え方が異なる。

【プロの結論】この問題を正しく理解するための判断基準は、①国籍と居住地を区別する、②自殺ほう助と積極的安楽死を混同しない、③法律と医師の倫理指針を分けて考える、④本人の意思と社会的圧力を区別する、という4点にある。

2026年以降も、尊厳死をめぐる議論では、本人の自己決定権と弱い立場にある人々の保護をどう両立させるかが中心的な課題となる。スイスの制度を知ることは、日本の終末期医療、障害福祉、緩和ケア、そして生き方の選択肢を考えるうえでも重要な意味を持っている。

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