今回の事故で亡くなった女性従業員は、報道各社が上村妃奈さん(24)と伝えています。株式会社東京ドームの社員で、アミューズメント部の技術グループに所属し、遊戯施設の保守・点検業務を担当していました。
事故が発生したのは、2026年4月21日午前11時50分ごろです。現場は東京都文京区後楽にある東京ドームシティ アトラクションズの「フライングバルーン」でした。
事故当時、上村さんは他の技術グループ社員とともに月次点検を実施していました。搬器と呼ばれる座席部分が塔体の最上部で停止している状態で、塔体中腹部の点検を行っていたところ、突然座席部分が下降。上村さんは座席と塔体構造物の間に挟まれました。
救助活動が続けられたものの、搬送先の病院で死亡が確認されました。
フライングバルーンとはどのような遊具だったのか
フライングバルーンは、塔体を中心に座席が水平回転しながら上下するアトラクションです。
事故調査委員会が公表した資料によると、主な仕様は次のとおりです。
- オープン日:2024年12月18日
- 塔体の高さ:約8.5メートル
- 装飾を含む最高部:約9.9メートル
- 座席数:12台
- 定員:12人
- 運転時間:約1分30秒
座席部分を上下させるために油圧機構が採用されており、油圧回路の状態が安全な運転に直結する構造でした。
今回の事故は、乗客が乗車中に発生したものではありません。営業前の保守点検作業中に、従業員が機械設備の危険にさらされた死亡事故です。
この違いは、事故の責任や再発防止策を考えるうえで重要です。利用客に対する運行管理だけでは、従業員が行う整備・補修作業の安全を保証できないことが浮き彫りになりました。
【東京ドームシティ事故の原因は?電磁弁の取り外しと油圧回路の圧力低下】

2026年7月10日に公表された事故調査委員会報告書は、今回の事故について、電磁弁の取り外し作業に伴って油圧回路内の圧力が抜け、座席部分が自重によって下降したと判断しました。
ただし、原因は単純な機械の故障だけではありません。
報告書が重大視したのは、通常の月次点検に含まれていない危険な作業が、十分な安全確認や組織的な承認を経ずに実施される状況を生み出したことです。
フライングバルーンの電磁弁は何をする部品なのか
電磁弁は、電気的な制御によって油圧の流れを切り替える部品です。
フライングバルーンでは、油圧によってシリンダー内の圧力を調整し、座席部分を上下させていました。
事故調査委員会の説明を整理すると、次のような関係になります。
1. 電磁弁が油圧の切り替えを制御する。
2. 油圧回路の圧力によってシリンダーが座席部分を支える。
3. 電磁弁を取り外すと、内部の油が漏れ、制御機能が失われる。
4. シリンダー内の油がオイルタンク側に戻る。
5. 油圧による支持力が失われ、座席部分が自重で下降する。
今回の事故では、搬器が最上部で停止した状態で電磁弁の取り外し作業が行われたと推認されています。
報告書では、油圧技術の専門家を交えた技術分科会による回路解析も実施され、この圧力低下が搬器下降の原因と判断されました。
重要なのは、電磁弁の内部確認そのものが危険だったという点です。
本来、この部品を扱う際には、搬器を一番下まで下ろし、油圧を完全に抜いた状態にする必要がありました。
つまり、座席部分が上部にある状態で作業したことが、重大な危険につながったのです。
電磁弁の取り外し作業に至った経緯
なぜ、通常の月次点検には含まれていない電磁弁の内部確認が行われたのでしょうか。
背景には、2025年12月から続いていたフライングバルーンの不調がありました。
事故調査委員会の報告書から、関連する出来事を時系列で整理します。
事故10日前に起きていた異常と施工会社とのやり取り
注目すべきなのは、事故の10日前にあたる4月11日、搬器の下降幅が通常より大きくなる不調が再び発生していたことです。
4月13日、施工会社から技術グループにメールで確認事項が提示されました。
その内容は、主に次の2点でした。
- 塔体下部にある油圧回路の不純物除去とエア抜き。
- 塔体中腹部にある電磁弁の内部に異物が入り込んでいないかの確認。
上村さんは、前者を翌日に、後者を4月21日の月次点検時に行う旨を返信していました。
このメールは技術グループのメンバーにも共有されていましたが、作業の具体的な手順や危険性について十分な説明は行われていませんでした。
また、当初は総括主任も電磁弁の確認に立ち会う予定だったものの、勤務シフトの変更によって月次点検に参加しなくなっていました。
結果として、当日の作業メンバー間で電磁弁の内部確認を行うことが明確に共有されていなかったのです。
【事故調査委員会が指摘した真相は?非定常作業と安全管理体制の不備】
今回の事故で最も要点は、事故調査委員会が個人の操作ミスだけに原因を求めなかったことです。
報告書は、事故の根本原因について、従業員に対する安全管理体制の脆弱さが招いた組織的な問題と判断しています。
具体的には、次の4つの問題が重なっていました。
1.通常点検と非定常作業の区別が不十分だった
通常の月次点検では、搬器を上部に停止させて塔体中腹部の目視点検や給脂作業を行うことがありました。
しかし、電磁弁の取り外しは月次点検マニュアルに記載されていない作業でした。
つまり、通常の点検と同じ感覚で実施してよい作業ではありません。
本来であれば、作業内容を事前に特定し、必要な安全措置を確認し、責任者の承認を得る必要がありました。
ところが、その仕組みが十分に機能していませんでした。
2.油圧機器の危険性に関する教育が不足していた
事故調査委員会の報告書によると、上村さんは2022年4月1日に東京ドームへ入社しました。
事故当時の勤続年数は4年で、入社以来、アミューズメント部の技術グループに所属していました。
フライングバルーンについては、2023年10月の導入準備プロジェクトから参加し、2024年12月の営業開始後はメイン担当者を務めていました。
報告書には、勤務態度が極めて良好であり、技術習得にも努めていたことが記されています。
また、社内研修を7件、電気・電気制御関連の講座など社外研修を11件受講していました。
一方で、フライングバルーンに関わる油圧の知識について、会社として特別な教育を行っていなかったことも明らかになっています。
ここには、一般的な技術研修を受けていることと、特定の機械設備に潜む危険を理解していることの違いがあります。
担当者として経験を積んでいても、油圧回路の専門的な危険性を十分に理解する教育がなければ、安全な作業を保証できません。
3.作業内容を確認する仕組みが機能していなかった
事故当日は、月次点検に参加した社員が複数いました。
しかし、作業前に電磁弁の内部確認についてチーム全体で確認するミーティングは行われていませんでした。
また、電磁弁を確認する予定があったことについても、他の作業メンバーが明確に把握していませんでした。
事故調査委員会は、作業前の打ち合わせやシフト変更時の引き継ぎが不十分だったことも問題視しています。
これは、作業に複数人が参加していたとしても、全員が同じ危険情報を共有していなければ、組織的な安全確認にはならないことを示しています。
4.従業員個人の裁量範囲が曖昧だった
報告書では、技術グループにおいて個々の経験や知識に依存した行動が許容される風土があったことも指摘されました。
担当者が自分の判断でどこまで作業してよいのか、メーカーや施工会社に依頼すべき作業は何なのか。
こうした境界線が明確ではありませんでした。
特に、初めて行う危険な作業について、誰が判断し、誰が承認し、誰が安全を確認するのかという責任分担が不明確だったことは重大です。
報告書が問題視したのは、上村さんが一人で危険な非定常作業を実施する状況を、組織として防げなかったことでした。
【東京ドームシティの再発防止策は?KYミーティングと安全管理の見直し】
2026年7月10日、東京ドームは事故調査委員会の報告書を受けて、今後の方針を発表しました。
中心となるのは、利用客だけでなく、遊戯施設を整備・保守する従業員の安全も同等に重視するという考え方です。
非定常作業には事前申請と上長承認を義務化
今回の事故を防ぐうえで大きな意味を持つのが、非定常作業の事前申請制度です。
今後は、通常の点検マニュアルに含まれない作業について、作業内容や担当者などを記載した「非定常作業事前申請書」を作成し、上長の承認を必須とする方針が示されました。
申請書には安全リスク評価のチェック項目を設け、組織として作業の安全性を判断する仕組みを構築します。
個人の経験や判断だけで危険な作業に着手できないようにすることが狙いです。
KYミーティングを作業開始前の必須事項に
再発防止策のなかでも注目されるのが、KYミーティングの義務化です。
KYとは「危険予知」の略称です。
作業前に、どのような危険が潜んでいるのか、何を確認すべきなのか、誰がどの作業を担当するのかをチームで共有します。
東京ドームが示した具体策は次のとおりです。
- 作業開始前にKYミーティングを実施する。
- チェックリストやマニュアルを用いて安全を確認する。
- 当日の作業計画をメンバー間で共有する。
- シフト変更時には確実に引き継ぎを行う。
- 作業中もメンバー同士で安全確認を行う。
今回の事故では、予定外の作業がチーム全体に正しく共有されていませんでした。
そのため、KYミーティングは単なる形式的な朝礼ではなく、当日の作業内容を組織として把握するための重要な仕組みになります。
メーカー・施工会社との責任分担を明確化
東京ドームは、過去5年分の非定常作業履歴を抽出し、外部専門家も交えて安全リスク評価を行う方針を示しました。
加えて、東京ドーム側が実施する作業と、メーカー・施工会社に依頼する作業を区分します。
初めて実施する非定常作業については、メーカーや施工会社から作業手順をメールまたは書面で受け取り、安全上の重要事項を明確にすることも盛り込まれています。
これにより、今回のように施工会社からの提案と現場での作業内容に認識の違いが生じるリスクを抑える狙いがあります。
再発防止策の全体像
営業再開に向けた対策
- 全遊戯機器の作業リスクの洗い出し
- 点検マニュアルの再確認と改訂
- メーカー・施工会社との責任分担の明確化
- 非定常作業の事前申請と上長承認
- KYミーティングの義務化
- 営業運転時の安全確認と従業員教育
継続的に取り組む対策
- 新しい遊戯機器を導入する際のリスク評価強化
- 技術担当者の教育体制の確立
- OJTとOff-JTを組み合わせた技術教育
- 担当者が実施できる作業範囲の明確化
- 必要に応じた社内資格制度の検討
- 技術グループの安全意識と組織風土の改革
- 経営陣を含めた全社的な支援体制の構築
また、再発防止策が実行されているかについては、内部監査と外部監査によるモニタリングを継続し、社外有識者を交えたフォローアップ体制を整えるとしています。
【営業再開は2026年8月3日!現在の東京ドームシティはどうなった?】
東京ドームシティ アトラクションズは、2026年4月21日の事故発生後、すべての遊戯機器の営業を休止していました。
その後、事故調査委員会による調査と再発防止策の策定を経て、7月24日に公式サイトで営業再開の予定が発表されました。
再開日は2026年8月3日(月)です。
フライングバルーンは営業再開後も乗れるのか
今回の事故が発生したフライングバルーンについては、営業再開後に運転を再開するのではなく、撤去する方針が示されました。
東京ドームの7月10日付発表によると、事故調査委員会による原因究明のプロセスが完了したことを受け、警察当局など関係者の了承を得たうえで撤去する予定とされました。
つまり、8月3日の営業再開は、フライングバルーンの再稼働を意味するものではありません。
2026年11月現在の営業状況
2026年11月5日時点では、東京ドームシティ アトラクションズは8月3日の営業再開後の営業段階にあります。
ただし、すべてのアトラクションが毎日同じ時間に運行しているわけではありません。
公式の営業時間・運行スケジュールでは、次のような点に注意が必要です。
- 営業時間は曜日やイベントなどによって異なる。
- 天候によって運休する場合がある。
- 定期点検や機械整備による一時休止がある。
- 当日の運行状況が変更される場合がある。
そのため、来園予定がある場合は、東京ドームシティ公式サイトの施設営業時間とアトラクション運行情報を確認することが確実です。
なお、営業再開は施設全体の運営再開を意味するものであり、個々の遊戯機器について安全性の確認や運行条件が同一であることを意味するものではありません。
【2011年のスピニングコースター舞姫事故との関係は?】
東京ドームシティの事故を調べる際、もう一つ重要なのが2011年1月30日に発生した「スピニングコースター舞姫」の死亡事故です。
こちらは、2026年のフライングバルーン事故とは別の事故です。
2011年1月30日午後0時40分ごろ、東京ドームシティ アトラクションズのスピニングコースター舞姫で、乗車していた34歳の男性が走行中に座席から転落し、死亡しました。
国土交通省の公表資料や東京ドームの事故報告によると、事故の直接的な原因は、安全バーが正しくロックされていない状態で運行されたことでした。
当時の運行マニュアルには、安全バーがロックしない場合に乗客を乗車させてはならないという明確な規定や、具体的な確認方法が不足していたことも明らかになっています。
2011年の事故後に整備された安全体制
東京ドームは舞姫事故後、次のような対策を進めました。
- 安全理念と安全基本方針の策定
- 安全推進室の設置
- アトラクションズ総合安全基準の制定
- 運行マニュアルや点検マニュアルの整備
- 従業員教育と安全訓練の強化
- 安全対策の履行状況を確認する監査体制の構築
今回の2026年事故調査委員会報告書も、2011年の事故を受けて整備された安全管理体制について言及しています。
ただし、今回明らかになったのは、利用客の安全を重視する仕組みが存在していた一方、従業員が設備の内部に立ち入って作業する際の安全管理には不十分な部分が残っていたという問題です。
ここに、2011年と2026年の事故を比較する意味があります。
| 比較項目 | 2011年の舞姫事故 | 2026年のフライングバルーン事故 |
|---|---|---|
| 発生日 | 2011年1月30日 | 2026年4月21日 |
| 被害者 | 乗客の男性 | 女性従業員 |
| 事故状況 | 走行中に座席から転落 | 点検中に下降した座席に挟まれる |
| 主な原因 | 安全バーのロック確認不足 | 電磁弁作業による油圧低下 |
| 安全管理上の問題 | 運行マニュアルと確認方法の不備 | 非定常作業のリスク評価・教育・承認体制の不備 |
| その後の対応 | 安全理念や総合安全基準の策定 | 従業員の作業安全を含めた管理体制の再構築 |
2011年と2026年では、事故の発生状況も直接原因も異なります。
しかし、どちらにも共通するのは、現場で実行されるべき安全確認が十分に機能していなかったという問題です。
2026年の報告書は、2011年に整備した安全管理体制が、従業員の作業安全にまで十分に及んでいなかったことを指摘しています。
この点は、今回の事故を単なる機械設備のトラブルとして終わらせてはいけない理由の一つです。
【東京ドームシティ事故女性に関するよくある質問(FAQ)】
Q1:東京ドームシティ事故で亡くなった女性は誰ですか?
A1:報道各社によると、亡くなったのは東京ドームの社員だった上村妃奈さん(24)です。2026年4月21日、フライングバルーンの点検作業中に事故に遭いました。
Q2:東京ドームシティの女性従業員死亡事故の原因は何ですか?
A2:事故調査委員会は、電磁弁の取り外しによって油圧回路内の圧力が低下し、座席部分が自重で下降したと判断しました。根本原因として、非定常作業に対する安全管理体制の不備も指摘しています。
Q3:フライングバルーンの電磁弁とは何ですか?
A3:油圧の切り替えを制御する部品です。今回の事故では、搬器が最上部にある状態で電磁弁の取り外し作業が行われ、油圧回路の圧力が抜けたことで座席部分が下降したと報告されています。
Q4:東京ドームシティ アトラクションズはいつ営業再開しましたか?
A4:2026年8月3日(月)に営業を再開しました。事故後に休止していた遊戯機器について、安全管理体制の整備や再発防止策を進めたうえでの再開です。
Q5:事故が起きたフライングバルーンは現在も運行していますか?
A5:いいえ。東京ドームの2026年7月10日付発表では、フライングバルーンを撤去する方針が示されています。営業再開後も同じアトラクションが運行されるわけではありません。
Q6:2011年のスピニングコースター舞姫事故と同じ事故ですか?
A6:別の事故です。2011年は乗客の男性が走行中に転落して死亡した事故で、2026年は女性従業員が点検作業中に挟まれて死亡した事故です。発生状況も直接原因も異なります。
Q7:東京ドームシティの現在の営業状況は確認できますか?
A7:確認できます。公式サイトに施設営業時間やアトラクションの運行情報が掲載されています。天候や点検による変更もあるため、来園当日の確認が必要です。
【まとめ:東京ドームシティ事故から考える安全管理の本質】
2026年4月21日に発生した東京ドームシティの女性従業員死亡事故は、遊戯施設の機械的な不具合だけでは説明できない、組織的な安全管理の問題を浮き彫りにしました。
事故調査委員会が2026年7月10日に公表した報告書によると、フライングバルーンの電磁弁を取り外したことで油圧回路内の圧力が抜け、座席部分が自重で下降したと判断されています。
加えて、通常の点検計画に含まれない作業に対して、十分なリスク評価、技術教育、事前承認、作業前の情報共有が行われていなかったことが根本的な問題として指摘されました。
東京ドームは、非定常作業の事前申請制度、KYミーティングの義務化、メーカーとの責任分担の明確化、従業員教育の強化などを再発防止策として掲げています。
また、事故が起きたフライングバルーンは撤去対象となり、アトラクションズは2026年8月3日に営業を再開しました。
今回の事故から読み取るべき最大の教訓は、安全管理とは利用客の事故を防ぐことだけではなく、安全を守るために働く従業員自身の命も守る仕組みでなければならないということです。
マニュアルにない作業を現場の判断だけで進めないこと。危険な作業には必ず組織的な承認を設けること。そして、担当者一人に安全上の責任を背負わせないこと。
こうした仕組みが日常の業務に定着して初めて、再発防止策は実効性を持ちます。
上村妃奈さんが亡くなった事故の教訓が、東京ドームシティだけでなく、遊園地や大型レジャー施設全体の従業員安全を見直す契機となることが求められています。
主な参照資料:株式会社東京ドーム「フライングバルーン事故調査委員会報告書」(2026年7月10日)、同社「今後の方針について」(同日)、同社の営業再開発表(2026年7月24日)、国土交通省の2011年事故関連資料、テレビ朝日報道。