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【熱中症の発症要因】環境・身体・行動の3つが重なる危険性

黒岩 雅也 黒岩 雅也 • 更新: • 公開: • 読了約 15 分
目次

熱中症は、単純に気温が高い日に発生する症状ではない。

厚生労働省の説明では、高温多湿の環境に長くいることで体内の水分・塩分のバランスが崩れ、体温調節機能が正常に働かなくなり、体内に熱がこもる状態とされている。

中学生の部活動では、環境、身体、行動という3つの要因が重なりやすい。

1.環境要因:気温だけでは判断できない

熱中症のリスクを左右する環境条件には、次のものがある。

- 気温の高さ
- 湿度の高さ
- 直射日光や地面からの照り返し
- 風通しの悪さ
- 体育館などの室内環境

特に注意したいのが湿度だ。

湿度が高いと汗が蒸発しにくくなり、体から熱を逃がす働きが弱くなる。気温がそれほど高くなくても、湿度や日射などの条件によって熱中症が発生する。

文部科学省も、2026年5月8日の通知で、気温25~30℃の段階から適切な予防措置を取るよう求めている。

2.身体要因:暑さに慣れていないこともリスクになる

同じ気温の中で運動していても、熱中症になる危険性は一人ひとり異なる。

主な注意点は次のとおりだ。

- 暑さに体が慣れていない
- 睡眠不足や疲労が蓄積している
- 発熱や体調不良がある
- 水分不足になっている
- 体力や健康状態に個人差がある

ここで重要になるのが「暑熱順化」だ。

暑熱順化とは、少しずつ暑さに体を慣らしていくこと。暑い時期の運動をいきなり通常の強度で始めるのではなく、休憩を取りながら段階的に活動量を増やしていく考え方である。

夏休み明けや長期休業後は、以前と同じ練習量をこなせるとは限らない。

文部科学省の2026年8月18日付通知でも、休業日明けは子どもたちの体が暑さや運動に慣れていないため、熱中症の危険性が高まると注意を促している。

3.行動要因:運動後の帰宅時間も危険な時間帯

身体に熱が蓄積した状態で、さらに暑い屋外を歩くことは負担になる。

特に部活動では、練習中の水分補給だけでなく、終了後の休憩や冷却、帰宅時の体調確認が欠かせない。

また、中学生は自分の体調変化を正確に判断できない場合もある。

「少し疲れただけ」「もうすぐ家に着くから大丈夫」と考えて無理をしてしまうことも想定しなければならない。

学校側には、生徒自身の自己管理だけに依存せず、指導者が運動強度や活動時間を調整する仕組みが求められる。

【WBGT・熱中症警戒アラート】部活動を中止すべき基準は?

熱中症中学生死亡

熱中症対策で重要な指標が、暑さ指数(WBGT)だ。

WBGTはWet Bulb Globe Temperatureの略で、湿球黒球温度とも呼ばれる。

一般的な気温とは異なり、次の3要素を組み合わせて人体が受ける暑熱ストレスを評価する。

- 湿度
- 日射・輻射熱など周辺の熱環境
- 気温

環境省の熱中症予防情報サイトでは、WBGTに応じた日常生活や運動の指針が公開されている。

WBGT別の運動判断基準

部活動の判断に役立つ代表的な目安は以下のとおりだ。

暑さ指数(WBGT) 危険度 運動の判断
31以上 危険 原則として運動中止。特に子どもは中止すべき
28以上31未満 厳重警戒 激しい運動や持久走などは中止
25以上28未満 警戒 積極的に休憩し、水分・塩分を補給
21以上25未満 注意 運動中も積極的に水分補給
21未満 ほぼ安全 通常は危険性が小さいが、適宜補給が必要

ここで誤解してはいけないのは、WBGTが21未満なら熱中症にならないという意味ではないことだ。

体調不良や激しい運動など、個人や活動の条件によっては低い数値でも事故が起こり得る。

また、WBGT28以上では熱中症患者が著しく増加する傾向が確認されている。部活動の指導者は数値だけでなく、生徒の様子も継続的に確認する必要がある。

熱中症警戒アラートと特別警戒アラートの違い

環境省が発表する熱中症警戒アラートには、通常の警戒アラートと、さらに危険性の高い特別警戒アラートがある。

項目 熱中症警戒アラート 熱中症特別警戒アラート
発表の判断 WBGT予測値が33を超える場合 WBGT予測値が35を超える場合
発表時刻 前日17時頃・当日5時頃 前日14時頃
意味 熱中症による健康被害のおそれ 熱中症による重大な健康被害のおそれ
学校の対応 活動場所の危険度を確認し、予防を徹底 より厳格な活動制限や安全確保を検討

重要なのは、アラートが発表されていないからといって安全とは限らないことだ。

アラートは地域単位の予測情報であり、学校のグラウンドや体育館、通学路の実際の環境とは異なる場合がある。

そのため、文部科学省は2026年の通知でも、アラートの有無だけに依存せず、実際に活動する場所のWBGTを把握するよう求めている。

学校は活動前だけでなく、活動中も暑さ指数を確認し、状況に応じて練習を短縮・中止する判断が必要になる。

【初期症状の見分け方】熱中症を疑ったら何をすべきか

熱中症は、初期段階で異変に気づき、適切に対応できるかどうかが重要になる。

厚生労働省が公表している症状と応急処置を基に、学校生活で注意したいポイントを整理する。

熱中症の初期症状

比較的早い段階で見られる症状

- めまい、立ちくらみ
- 大量の発汗
- 手足のしびれ
- 筋肉痛やこむら返り
- 生あくび
- 気分の悪さ

症状が進行した場合に見られる症状

- 頭痛
- 吐き気、嘔吐
- 強い倦怠感
- 虚脱感
- 返事がおかしい
- 意識障害
- けいれん
- 高体温

特に注意したいのが、本人の言動や反応の変化だ。

普段は普通に会話できる生徒が、急にぼんやりする、質問に正しく答えられない、歩き方がおかしくなるといった変化が見られた場合、熱中症の重症化を疑う必要がある。

厚生労働省は、意識障害やけいれんなどの重い症状が現れた場合、速やかな救急対応を求めている。

熱中症が疑われる場合の応急処置




まず意識と反応を確認する

意識がない、反応がおかしい、自力で水が飲めない場合は、直ちに119番通報する。



1.涼しい場所へ移動

エアコンのある室内や風通しのよい日陰に移動させる。



2.衣服を緩めて体を冷やす

首の周囲、脇の下、足の付け根などを中心に冷却する。全身を速やかに冷やすことも重要。



3.水分・塩分を補給

意識がはっきりしていて、自力で飲める場合に水分・塩分や経口補水液などを補給する。



4.必要に応じて救急搬送

意識障害などの重い症状がある場合は、応急処置と並行して救急要請する。

注意: 意識がはっきりしない人に無理に水を飲ませてはいけない。誤嚥の危険があるためだ。また、経口補水液を一度に大量に飲ませることも適切ではない。

水分補給と塩分補給は運動前後も必要

部活動中に水を飲むだけでは十分とは限らない。

発汗によって水分と塩分が失われるため、運動前、運動中、運動後のそれぞれで補給できる環境を整える必要がある。

特に運動後は、体温が高いまま帰宅行動に移らないよう、休憩とクールダウンを組み合わせることが大切だ。

また、水分補給を本人の自主性だけに任せるのではなく、指導者が定期的に休憩時間を設け、飲料を確保できているか確認する仕組みも必要になる。

【2026年最新の学校熱中症対策】文部科学省が求める再発防止策

2026年の学校における熱中症対策を考えるうえで、重要な資料が5月8日と8月18日に発出された文部科学省の通知だ。

2026年5月8日:学校活動全般の安全管理を強化

文部科学省は2026年5月8日付の通知で、2025年度の夏の状況を公表している。

注目すべき数字は次の2つだ。




100,510人


2025年の熱中症救急搬送
全国・全年齢




2,813件


学校管理下の熱中症
登下校中を含む


出典は、総務省消防庁の救急搬送データと日本スポーツ振興センターの調査である。学校管理下の2,813件には登下校中も含まれている。

この数字は、学校の熱中症対策が運動部活動だけの問題ではないことを示している。

文部科学省が求めている主な対策は以下のとおりだ。

- 教職員と部活動指導者の間で危険認識を共有する。
- 気温25~30℃の段階から予防措置を講じる。
- 活動前・活動中にWBGTを測定する。
- 水分・塩分補給と休憩の環境を整える。
- 冷却やAEDを含む救命対応の体制を整備する。
- 教室や体育館などの空調設備を適切に活用する。
- 登下校時も含めて生徒への熱中症予防教育を行う。

加えて、危機管理マニュアルには活動中止の基準、判断者、情報の伝達方法を具体的に定めるよう求めている。

2026年8月18日:夏休み明けの事故防止を再通知

8月18日には、休業日明けの時期における熱中症事故防止について、改めて通知が発出された。

この通知で特に重要なのは、次の4点だ。

1.暑熱順化を計画的に取り入れる

長期休業後は、体が暑さや運動に慣れていない可能性がある。いきなり通常の練習量に戻さず、段階的に活動強度を上げる。

2.活動場所でWBGTを測定する

地域の予測値だけでなく、実際の運動場や体育館などの環境を把握する。電子式暑さ指数計はJIS B 7922に適合した機器の活用も示されている。

3.救命対応をためらわない

熱中症が疑われる場合に備えて、迅速な全身冷却、一次救命処置、AEDの使用、救急要請ができる体制を確保する。

4.下校中の事故も想定する

体育や部活動だけでなく、屋内授業、文化部などの活動、登下校中も事故が起きる可能性を考慮する。

また、スポーツ庁は2026年1月に「運動・スポーツにおける安全対策の評価・改善のためのガイドライン(試行版)」を取りまとめている。

学校現場での安全管理を継続的に評価し、改善する方向性も示されている。

部活動の熱中症予防と再発防止に必要な5つの対策

中学生の死亡事案を踏まえ、実際の学校生活に落とし込むと、再発防止策は次の5つに整理できる。

① 部活動の開始前に中止・変更を判断する

WBGTを確認し、危険な環境では練習を中止する。中止を決める責任者と代行者を明確にしておく。

② 練習中の休憩と給水を制度化する

生徒が遠慮して水を飲めない状況をなくす。定期的な休憩時間を設定し、飲料や冷却用品を準備する。

③ 運動終了後のクールダウンを徹底する

練習を終えた直後に帰宅させず、体温や体調を確認しながら休憩を取る。必要に応じて冷房のある場所で体を冷やす。

④ 下校時の安全確認を行う

体調不良の生徒を一人で帰宅させない。必要に応じて保護者への連絡や医療機関への搬送を判断する。

⑤ 生徒が異変を申し出られる環境を作る

体調不良を訴えることが、練習を休むことへの後ろめたさにつながらないようにする。指導者側からも生徒の顔色、反応、歩き方などを確認する。

こうした取り組みは、単に熱中症を予防するだけでなく、異変が発生した場合に重症化を防ぐための仕組みでもある。

【熱中症中学生死亡に関するよくある質問(FAQ)】

Q1:2023年7月28日の中学生死亡事案は何が原因だった?

A1:文部科学省の公表資料では、部活動後の帰宅中に歩道で熱中症とみられる症状で倒れ、意識不明の状態で病院に搬送されて死亡したとされている。公表資料上の表現は「熱中症疑い」であり、医学的な死因の詳細までは記載されていない。

Q2:事故が起きた中学校や生徒の名前は公表されている?

A2:文部科学省の2023年7月31日付事務連絡では、学校名、所在地、生徒の氏名などは掲載されていない。

Q3:部活動後の帰宅中にも熱中症になる?

A3:なる可能性がある。運動後も体内に熱がこもり、水分・塩分が失われた状態が続く場合があるためだ。帰宅前のクールダウン、体調確認、適切な補給が必要になる。

Q4:WBGTが何度になったら部活動を中止する?

A4:日本スポーツ協会の運動指針では、WBGT31以上は原則運動中止、28以上31未満は厳重警戒で激しい運動を中止する目安となっている。特に子どもは31以上で運動を中止すべきとされる。

Q5:熱中症の初期症状には何がある?

A5:めまい、立ちくらみ、大量の発汗、筋肉痛、こむら返りなどが代表的だ。頭痛や吐き気、強い倦怠感などにも注意が必要。意識障害やけいれんがある場合は重症化を疑い、直ちに救急要請する。

Q6:2026年の文部科学省による学校向け対策は?

A6:2026年5月8日と8月18日に注意喚起が発出されている。WBGTによる活動判断、暑熱順化、水分・塩分補給、休憩、冷却、救急要請体制、休業日明けの安全管理などが主な内容だ。

まとめ:部活動後の下校まで含めた熱中症対策が命を守る

2023年7月28日に発生した中学生の熱中症疑い死亡事案は、学校における熱中症対策の対象を、運動中だけでなく運動終了後や下校時まで広げる必要性を示した。

文部科学省は2024年のガイドライン追補版にこの事故を掲載し、2026年も5月8日と8月18日に学校向けの注意喚起を発出している。特に、2025年度に全国で確認された学校管理下の熱中症2,813件という数字は、学校生活全体で対策を進める必要性を裏付けている。

再発防止の鍵は、WBGTによる活動判断、運動前後の水分・塩分補給、クールダウン、異変の早期発見、迅速な救急対応を一つの安全管理体制として機能させることだ。

そして、最も大切なのは、部活動を終えた生徒が無事に帰宅するまでを安全管理の一部として考えること。練習を予定どおり終えることよりも、生徒の命と健康を守ることを優先する。その判断を学校、指導者、保護者、生徒が共有することが、悲しい事故を繰り返さないための出発点となる。

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