ディープフェイクポルノの日本の法律を考えるうえで、最も重要なのは、映像を作成した行為、本人に送信した行為、不特定多数に公開した行為を分けて考えることだ。
2026年11月現在、日本には性的ディープフェイクそのものを包括的に犯罪化する独立した法律はない。一方、既存の刑法や民事上の権利保護、インターネット上の削除制度を組み合わせて対応できるケースがある。
1.肖像権侵害・プライバシー権侵害
実在人物の顔を無断で性的な映像に合成した場合、肖像権やプライバシー権の侵害が問題になる。
肖像権は、他人が自分の容貌を無断で撮影・利用することなどから人格的利益を守るための権利として、判例上認められている。
性的ディープフェイクでは、実際に撮影された本人の写真を利用しているかだけでなく、本人と識別できるか、どのような文脈で公開されたか、本人にどの程度の精神的苦痛や社会的影響が生じたかなどが判断材料になる。
また、プライバシー権は、私生活に関する情報を本人の意思に反して公開されない利益にも関係する。
無断生成・公開によってこれらの利益を侵害した場合、民法709条の不法行為に基づく損害賠償請求や、状況に応じた差止めなどを検討できる。
なお、肖像権侵害という名称の独立した刑事犯罪が存在するわけではない。刑事責任と民事責任は区別する必要がある。
2.名誉毀損罪・侮辱罪
本人が出演していない性的映像を、本人の出演作品であるかのように公開した場合、名誉毀損が問題になる可能性がある。
刑法230条の名誉毀損罪は、公然と事実を摘示し、人の社会的評価を低下させる行為を対象とする。
一方、刑法231条の侮辱罪は、具体的な事実を示さなくても、公然と人を侮辱する行為を対象とする。
ただし、性的ディープフェイクなら必ず名誉毀損罪が成立するわけではない。
例えば、映像が明らかな創作物と認識されている場合と、実在人物本人の出演映像だと誤認させる形で公開された場合では、社会的評価への影響が異なる。
本人の特定可能性や投稿の説明文、公開範囲などを含めた判断が必要になる。
3.わいせつ物頒布等罪
刑法175条では、わいせつな文書・図画・電磁的記録などの頒布や公然陳列、電気通信によるわいせつな電磁的記録の頒布を処罰対象としている。
2026年現在の法定刑は、2年以下の拘禁刑もしくは250万円以下の罰金、またはその併科だ。
インターネット上で性的な映像を公開した場合、映像が刑法上のわいせつ物に該当するか、どのような方法で送信・公開されたかが問題になる。
重要なのは、性的な映像であることと、刑法175条のわいせつ物に該当することは同じではないという点だ。
また、1対1のDMで送った場合と、不特定多数が閲覧できるサイトに公開した場合では、犯罪の成立要件に違いがある。
4.私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律
一般にリベンジポルノ防止法と呼ばれる法律だ。
2014年に成立した同法は、本人が第三者に見られることを認識して撮影を許可したものなどを除き、性的な姿態が撮影された画像の無断公開などを規制している。
対象となる画像には、次のようなものがある。
- 性交または性交類似行為に関する姿態
- 性的な部位を触る行為に関する姿態
- 性的な部位が露出・強調された姿態
撮影対象者を特定できる方法で、不特定または多数の者にインターネット経由で提供・公開するなどの要件を満たした場合、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象となり得る。
ただし、ここにはディープフェイク特有の法的な問題がある。
同法の定義は、基本的に人の性的な姿態が「撮影された画像」を前提としている。そのため、実際に撮影された性的映像に顔を合成したケースと、身体も含めて完全にAIで生成したケースでは、法律の適用について検討すべき点が異なる。
完全AI生成の性的画像が、すべてリベンジポルノ防止法で処罰できると考えるのは正確ではない。
実際の素材の内容、撮影経緯、本人の同意、公開方法などを踏まえた個別判断が必要だ。
5.2026年の法律・制度を整理する
ディープフェイクAVに関係する主な法律・制度は次のとおりだ。
| 法律・制度 | 関係する行為・保護対象 | 2026年の注意点 |
|---|---|---|
| 肖像権・プライバシー権 | 顔や人格的利益の無断利用 | 民事上の損害賠償・差止めなどを検討 |
| 名誉毀損罪・侮辱罪 | 社会的評価を低下させる公開・侮辱 | 公然性や投稿内容などの要件がある |
| 刑法175条 | わいせつな映像の頒布・公然陳列 | 性的映像すべてが対象になるわけではない |
| リベンジポルノ防止法 | 私事性的画像記録の無断提供・公開 | 撮影された姿態という法定要件に注意 |
| AI法 | AI技術の適正な研究開発・活用の推進 | 性的ディープフェイクを直接犯罪化する法律ではない |
| 情報流通プラットフォーム対処法 | ネット上の権利侵害情報への対応 | 対象となる大規模事業者には原則7日以内の判断・通知義務がある |
特に注目したいのが、2025年に成立したAI法と、情報流通プラットフォーム対処法だ。
AI法は2025年6月4日に公布され、同年9月1日に全面施行された。AIの研究開発と活用を推進しながら、適正性の確保や国の対応体制を整える法律である。性的ディープフェイクの作成や所持を、それだけで一律に犯罪とする法律ではない。
一方、情報流通プラットフォーム対処法は、2025年4月1日に施行された。
一定規模以上のプラットフォーム事業者に対し、権利侵害情報の削除申出を受け付ける体制の整備や、原則7日以内の判断・通知などを求めている。
2026年6月9日の参議院総務委員会では、総務省政府参考人が、同法の適用対象として9事業者が指定されていることや、削除申出への迅速な対応について説明している。
ただし、7日以内に通知する義務は、必ず7日以内に投稿が削除されるという意味ではない。
【被害者向けガイド】ディープフェイク動画の削除請求と相談手順

性的ディープフェイクの被害に遭った場合、最優先すべきなのは被害の拡大を抑えることだ。
本人が直接投稿者と交渉する必要はない。証拠を残し、プラットフォームや公的相談窓口、必要に応じて警察や弁護士に対応を求めることができる。
STEP1.投稿の証拠を保存する
最初に、問題となっている投稿の情報を記録する。
保存しておきたい情報は次のとおり。
- 投稿ページのURL
- 投稿日時と確認日時
- 投稿者のアカウント名・ID
- 投稿に付けられた説明文やコメント
- 拡散状況が分かる画面
- 投稿者とのDMや脅迫的なメッセージ
- 削除依頼をした日時と運営側の回答
警察庁も、インターネット上の誹謗中傷被害について、サイト名、URL、投稿者、日時、内容などの記録を推奨している。
性的な映像そのものを再投稿したり、第三者に転送したりする必要はない。証拠の取り扱いに不安がある場合は、警察や弁護士に相談して適切な保存方法を確認したい。
STEP2.投稿先のプラットフォームに削除を申請する
SNS、動画共有サービス、掲示板などには、権利侵害や性的画像に関する通報・削除申請の仕組みが設けられている。
申請時には、単に「不快な動画だから削除してほしい」と伝えるだけでなく、次の点を具体的に示すとよい。
- 本人の同意なく顔や肖像を使用されていること
- 本人が出演・撮影に参加した映像ではないこと
- 性的な内容によって人格的利益が侵害されていること
- 本人を特定できる情報が掲載されていること
- 拡散によって被害が拡大していること
本人が投稿者と直接連絡を取ることは避け、運営会社の正式な窓口を利用するのが基本だ。
STEP3.法務局・違法有害情報相談センターを利用する
自分だけで削除請求を進めるのが難しい場合は、公的な相談機関を利用できる。
法務局・地方法務局
性的画像を含むインターネット上の人権侵害について相談できる。削除依頼の方法について助言を受けられるほか、事案によってはプロバイダなどに削除を要請する。
違法・有害情報相談センター
インターネット上の名誉毀損、プライバシー侵害、人権侵害などについて、削除方法や発信者の特定方法などの助言を受けられる。
ただし、同センターは本人に代わって削除請求を行う機関ではない。相談者自身が対応するための支援を行う。
セーフライン
インターネット上の違法・有害情報について通報や相談を受け付け、被害者に代わって無料で削除依頼を行う民間のホットラインだ。
これらの窓口は内閣府男女共同参画局の相談窓口案内にも掲載されている。
STEP4.警察や専門家に相談する
性的ディープフェイクを使った脅迫、金銭要求、嫌がらせ、個人情報の公開などが発生している場合は、警察への相談も必要になる。
利用できる主な窓口は以下のとおり。
#9110:警察相談専用電話
犯罪被害や脅迫、ネット上のトラブルについて相談できる。緊急性がある場合は110番を利用する。
#8103:性犯罪被害相談電話
性犯罪・性暴力被害に関する警察の相談窓口。
#8891:性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター
医療的支援、心理的支援、警察への同行、弁護士などの専門家の紹介を受けられる。
被害者が精神的に追い詰められている場合、削除請求だけでなく心理的な支援を受けることも大切だ。
STEP5.発信者情報の開示や損害賠償を検討する
投稿者が匿名であっても、一定の要件を満たせば、発信者情報開示請求などによって投稿者の特定を目指せる。
投稿者が特定できれば、弁護士と相談しながら、損害賠償請求や差止めなどの民事上の対応を検討できる。
ただし、発信者情報の開示には法的な要件があり、必ず身元が判明するわけではない。
削除と発信者の特定は別の手続きとして考え、証拠が失われる前に専門家へ相談することが重要だ。
【2026年最新】ディープフェイク法規制の現状と今後の課題
日本と海外では規制の考え方が異なる
性的ディープフェイクへの法的対応は、国によって大きく異なる。
2026年秋のテレビ朝日の報道では、撮影会モデルが、自身のSNS投稿に対してAIで生成された露出度の高い画像を返信欄に掲載された被害を証言した。
加えて、応援メッセージに続いて性的な画像をDMで送られた経験も紹介されている。
同報道で解説した弁護士は、日本ではディープフェイクそのものを対象とする独立した規制がなく、1対1のDM送信では、名誉毀損やわいせつ物頒布等罪などの適用が難しいケースがあると説明した。
また、1対1の送信であっても、精神的苦痛を生じさせた行為が民事上の不法行為となる可能性はあると指摘している。
この報道が示しているのは、被害者が実際に苦痛を受けていることと、既存の刑事法で処罰できることは必ずしも一致しないという問題だ。
韓国では2024年に性的ディープフェイク関連の規制が強化され、制作や所持などに対する処罰の枠組みが整備された。日本とは規制の範囲や考え方が異なる。
2026年の日本で残されている3つの課題
1.生成しただけの行為への対応
本人の同意なく性的画像を生成すること自体に対し、どこまで刑事規制を設けるべきかという問題がある。
現行制度では、作成、所持、送信、公開を同じ行為として扱うことはできない。
2.完全AI生成画像への法的対応
実際の撮影素材を利用した映像と、AIがすべて生成した映像では、既存の法律の適用に違いが生じる可能性がある。
特にリベンジポルノ防止法のように、撮影された性的姿態を前提とする法律については、完全生成型の画像にどのような保護を及ぼせるかが課題となる。
3.削除と被害回復のスピード
投稿が削除されても、別のアカウントや海外サイトに転載される可能性がある。
そのため、削除申請だけでなく、転載防止、発信者の特定、精神的なケア、損害回復を一体として考える必要がある。
2026年の法規制を理解する際には、AI法によるAI政策の推進と、既存の刑法・民法による個別の被害救済を混同しないことが大切だ。
【よくある質問】ディープフェイクAVに関するFAQ
Q1:ディープフェイクAVを個人的に作成しただけでも違法ですか?
A1:日本には、性的ディープフェイクの作成だけを一律に処罰する独立した法律はない。ただし、使用した素材や生成の経緯によっては、別の法律や民事上の権利侵害が問題になる可能性がある。作成しただけなら必ず合法という意味ではない。
Q2:自分の顔を使ったディープフェイクAVをSNSに投稿されたら、どうすればよいですか?
A2:まず投稿URL、アカウント名、日時、投稿内容などを記録し、SNS運営会社に削除申請を行う。並行して法務局、違法・有害情報相談センター、警察などに相談する。脅迫や金銭要求がある場合は、メッセージも保存して警察に相談したい。
Q3:AI生成AVと本物のAVは見分けられますか?
A3:透かし、顔の輪郭、表情の連続性、背景、投稿者情報などから判断材料を集めることはできる。ただし、2026年時点でも目視やAI検知ツールだけで確実に判定することは難しい。映像の出典や複数の情報源を照合することが重要だ。
まとめ:ディープフェイクAVの正しい理解と今後の判断基準
ディープフェイクAVは、AIによる顔合成や映像生成の進化によって、実在人物が出演しているかのような性的映像を作り出せる技術から生まれたコンテンツだ。
しかし、AI技術が存在することと、他人の顔を無断で性的な映像に利用してよいことは別問題である。
2026年11月時点で押さえておきたい要点は次の3つだ。
- 技術面: AI生成映像の品質は向上しており、目視だけで真偽を判断することは難しくなっている。
- 法律面: 日本には独立したディープフェイク規制法はないが、肖像権、プライバシー権、名誉毀損、わいせつ物頒布等罪などによって対応できる場合がある。
- 被害対策: 証拠の保存、投稿の削除申請、公的機関への相談を早期に進めることが重要だ。
【プロの結論】判断すべきなのは映像の真偽だけではない
ディープフェイク問題を考えるとき、最も大切なのは「本物か偽物か」という二択に終始しないことだ。
本人が出演していない映像であっても、本人の顔を性的な文脈で無断利用すれば、人格的利益や私生活の平穏を侵害する可能性がある。
また、刑事罰が適用されないケースがあることと、被害者が法的救済を受けられないことも同じではない。
今後はAI生成物の識別技術だけでなく、本人の同意を尊重する制作環境、迅速な削除体制、被害者の権利を実効的に守る制度が求められる。
2026年のディープフェイクAVを理解するうえでの基本は、AIで作れることを、他人の肖像や尊厳を自由に利用できる理由にしないことだ。
主な参考資料・公的情報
- 内閣府「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」
- e-Gov法令検索「刑法」「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律」
- 警察庁「リベンジポルノ等の被害を防止するために」
- 内閣府男女共同参画局「性犯罪・性暴力相談窓口」
- 日本ファクトチェックセンター「生成AIによるディープフェイクの見分け方」
- 第221回国会・参議院総務委員会(2026年6月9日)
- テレビ朝日「生成AI×エロ どこまで規制」(2026年報道)