大勲位菊花章頸飾(だいくんいきっかしょうけいしょく)は、日本の勲章制度における最高位の栄典「大勲位菊花章」を構成する勲章であり、金色の首飾りを身に着ける独特の形式で知られています。明治21年(1888年)に制定され、首飾りには明治時代を象徴する「明」「治」の文字と菊花・菊葉が配されています。授与対象は、国家や公共に対して極めて優れた功労のある人物です。
戦後の日本人受章者として内閣府が公表しているのは、吉田茂、佐藤栄作、中曽根康弘、安倍晋三の4人です。一方、外国の国王や大統領などにも授与されてきました。2026年11月現在の公開資料を基に、制定の経緯、歴代受章者、授与対象、デザインの意味、そして大勲位菊花大綬章との違いまで整理します。
【基本知識】大勲位菊花章頸飾とは?日本最高位の栄典の正体

大勲位菊花章頸飾は、日本国が授与する勲章のうち、最も高い格式を持つ「大勲位菊花章」の頸飾形式です。
英語では「Collar of the Supreme Order of the Chrysanthemum」と表記されます。
一般的な勲章は、胸元に着ける章や肩から掛けるリボン状の綬(じゅ)を特徴とします。しかし、大勲位菊花章頸飾は、金色の連環を首に掛け、その中央に勲章を配する構造です。
授与対象はどのような人物なのか
内閣府の「勲章の種類及び授与対象」によると、大勲位菊花章は次のような功労を対象としています。
旭日大綬章または瑞宝大綬章を授与されるべき功労よりも、さらに優れた功労のある人物。
つまり、単に社会的地位が高い、長期間にわたって公職に就いたという理由だけで授与されるものではありません。
国家に対する特に顕著な功績や、国際的な外交関係などにおける重要な役割が背景となります。
実際、戦後の日本人受章者は全員が元内閣総理大臣です。一方、外国人受章者には国王、皇帝、大統領などが名を連ねています。
ここで押さえておきたいのは、大勲位菊花章頸飾は内閣総理大臣という職に自動的に付与される勲章ではないという点です。
首相経験者であっても、全員が受章しているわけではありません。
大勲位菊花章の位置付け
日本の勲章制度には、旭日章、瑞宝章、文化勲章、桐花大綬章などがあります。
その中でも大勲位菊花章は最高位に位置します。
頸飾と大綬章は別々の勲章制度ではなく、同じ大勲位菊花章を構成する異なる形式・位です。
【制定経緯】明治21年に誕生した理由と歴史的背景
大勲位菊花章頸飾の歴史を理解するには、明治時代に始まった日本の近代的な栄典制度を振り返る必要があります。
明治9年に大勲位菊花大綬章が制定
日本の勲章制度は、明治8年(1875年)の太政官布告によって本格的に始まりました。
その後、明治9年(1876年)に大勲位菊花大綬章が制定されます。
明治政府は、国家に対する功績を公式に評価する制度を整備する過程で、諸外国の勲章制度も参考にしました。
特にヨーロッパの王室や国家元首が用いる最高位の勲章には、首飾り形式のものが存在していました。
日本でも国際儀礼に対応できる最高位の栄典を整備する必要があり、その流れの中で頸飾が設けられました。
明治21年1月4日に正式制定
大勲位菊花章頸飾は、明治21年(1888年)1月4日、勅令第1号によって制定されました。
国立公文書館が公開する当時の勅令には、頸飾について次の規定があります。
大勲位菊花章頸飾ハ大勲位ニ叙セシ者ニ特別之ヲ賜フ
これは、大勲位に叙せられた者に対して特別に授与するという趣旨です。
また、頸飾の装飾についても、菊花・菊葉と「明」「治」の二文字を古篆文で飾ることが規定されました。
制定の背景には、明治国家の栄典制度を確立し、国内外に対して日本の国家的な格式を示すという目的がありました。
国立公文書館の歴史資料でも、明治21年の勲章増設は日本の栄典制度における重要な転換点として紹介されています。
戦後も最高位の勲章として継承
第二次世界大戦後、日本の栄典制度は大きく見直されました。
内閣府の制度資料によれば、生存者に対する勲章授与は昭和21年(1946年)に一時停止され、その後、昭和38年(1963年)の閣議決定によって再開されています。
再開後の第1回叙勲は、昭和39年(1964年)4月29日付けでした。
大勲位菊花章頸飾も戦後の制度の中で維持され、外交上の儀礼や、特に顕著な功績を残した人物への栄典として位置付けられています。
【デザインの意味】「明」「治」の文字と菊花に込められた象徴
大勲位菊花章頸飾がほかの日本の勲章と大きく異なるのは、その装飾に明確な歴史的意味が込められていることです。
「明」「治」は明治時代を示す文字
頸飾の連環部分には、「明」と「治」の文字が古篆字(こてんじ)という古い篆書体で表現されています。
これは、単なる装飾ではありません。
この勲章が明治時代に制定されたことを示す歴史的な意匠です。
古篆字は、現代の一般的な漢字とは異なる独特の書体で、格式や伝統を感じさせます。
その文字を金色の連環に組み込むことで、制定時代と国家の歴史を勲章そのものに刻み込んでいます。
菊花と菊葉が象徴するもの
菊花は日本の皇室と深い関係を持つ意匠です。
大勲位菊花章では、中央の日章を取り囲むように菊花と菊葉が配置されています。
内閣府の公式説明によると、デザインの基本構成は次のとおりです。
- 日章:日本の国旗である日の丸を象徴する。
- 旭光:太陽から広がる光線を表現する。
- 菊花:皇室にゆかりのある象徴的な花。
- 菊葉:菊花と一体となった装飾的な構成。
- 「明」「治」:勲章の制定時代を表す文字。
特に旭光については、内閣府が「旭日昇天」の意気を示すものと説明しています。
法令に定められた素材と寸法
デザインは美的な感覚だけで決められているわけではありません。
平成15年(2003年)に施行された内閣府令では、勲章の制式と形状が具体的に定められています。
頸飾の中央部分は円形で、直径39ミリメートル。連環は楕円形で、長径28ミリメートル、短径24ミリメートルとされています。
菊花は金、菊葉は緑色七宝、古篆字の「明」「治」は金色という仕様です。
こうした細部まで法令に定められていることからも、頸飾が単なる装飾品ではなく、国家の公式な栄典であることが分かります。
【歴代受章者一覧】吉田茂・佐藤栄作・中曽根康弘・安倍晋三
大勲位菊花章頸飾を調べる読者が特に気になるのが、実際に誰が授与されたのかという点です。
内閣府賞勲局が公開する「大勲位菊花章頸飾受章者一覧(戦後)」には、日本人の受章者として4人が掲載されています。
戦後の日本人受章者4人
1.
1967年(昭和42年)10月20日
戦後日本の復興と国際社会への復帰に大きな役割を果たした元首相。1964年春に大勲位菊花大綬章を受章し、1967年に頸飾が追贈されました。
2.
1975年(昭和50年)6月3日
沖縄返還や日米関係などに関わった元首相。1972年秋に大綬章を受章し、1975年に頸飾が追贈されました。
3.
2019年(令和元年)11月29日
行政改革や外交政策などに取り組んだ元首相。1997年春に大綬章を受章し、2019年に頸飾が追贈されました。
4.
2022年(令和4年)7月8日
元首相。2022年7月8日付で大勲位菊花大綬章と頸飾の両方が授与されました。
受章年月日と大綬章との関係を一覧で比較
内閣府の頸飾受章者一覧と大綬章受章者一覧を照合すると、4人の受章経緯には共通点があります。
| 氏名 | 頸飾の受章年月日 | 大綬章との関係 |
|---|---|---|
| 吉田茂 | 1967年10月20日 | 1964年春に先行受章 |
| 佐藤栄作 | 1975年6月3日 | 1972年秋に先行受章 |
| 中曽根康弘 | 2019年11月29日 | 1997年春に先行受章 |
| 安倍晋三 | 2022年7月8日 | 同日に両方を受章 |
この表から分かるのは、吉田、佐藤、中曽根の3人は大綬章を受章した後、頸飾を追贈されていることです。
安倍晋三の場合は、すでに大綬章を受章していた3人とは異なり、両方が同じ日付で授与されました。
つまり、頸飾の授与には一律の時間的な順序があるわけではありません。
戦前の受章者には誰がいる?
戦前に目を向けると、近代日本の政治・軍事史を代表する人物が名を連ねています。
代表例として挙げられるのは、次の人物です。
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これらの人物は、近代国家の形成や外交、軍事などの分野で重要な役割を果たしました。
ただし、戦前の受章記録と内閣府が掲載する戦後の一般受章者一覧は、資料の対象範囲が異なります。歴代受章者を調べる場合は、天皇・皇族、外国人への儀礼叙勲、国内の一般受章者を区別する必要があります。
外国人の受章者にも注目
大勲位菊花章頸飾は、日本人だけに授与されるものではありません。
戦後の外国人受章者一覧には、各国の国王や大統領などが掲載されています。
内閣府の資料に掲載されている代表例は次のとおりです。
- ハイレ・セラシェ1世:エチオピア皇帝、1956年。
- ドワイト・D・アイゼンハワー:アメリカ大統領、1960年。
- エリザベス2世:英国女王、1962年。
- カール16世グスタフ:スウェーデン国王、1980年。
- ベアトリクス:オランダ女王、1991年。
- チャールズ3世:英国国王、2024年6月14日。
こうした受章者の顔ぶれからも、頸飾が国内の功労者に対する表彰だけではなく、日本と諸外国の関係を象徴する栄典としても機能していることが分かります。
【徹底比較】大勲位菊花章頸飾と大勲位菊花大綬章の違い
検索時に混同されやすいのが、大勲位菊花章頸飾と大勲位菊花大綬章です。
名前が似ているため、同じ勲章の別称だと思われることがありますが、実際には授与形式と格式に違いがあります。
2つの勲章の違いを整理
| 比較項目 | 大勲位菊花章頸飾 | 大勲位菊花大綬章 |
|---|---|---|
| 制定 | 明治21年(1888年) | 明治9年(1876年) |
| 格式 | 大勲位菊花章の最上位形式 | 大勲位菊花章の大綬章形式 |
| 着用方法 | 金色の頸飾を首に掛ける | 右肩から左脇に大綬を掛ける |
| 形状 | 首飾りと中央の勲章 | 帯状の綬と章、副章 |
| 主な授与対象 | 特に優れた功労を持つ人物 | 特に優れた功労を持つ人物 |
| 戦後の日本人受章者 | 4人 | 皇族・政治家など複数 |
最大の違いは首飾りか肩掛けか
大勲位菊花章頸飾は、首の下に頸飾を着用し、副章を左胸付近に佩用します。
一方、大勲位菊花大綬章は、右肩から左脇へ大きな綬を垂らして着用し、副章を左胸に佩用します。
この違いは、単なるファッション上の差ではありません。
勲章の格式と着用形式を区別する、正式な制度上の違いです。
頸飾は大綬章より上位なのか
答えは、頸飾が上位です。
内閣府は大勲位菊花章を日本の最高位の勲章として紹介し、頸飾と大綬章をそれぞれ掲載しています。
また、国際儀礼に関する公的な解説でも、頸飾は大綬章より上位の形式として説明されています。
実際、戦後の日本人受章者を見ると、吉田茂、佐藤栄作、中曽根康弘は先に大綬章を受章し、その後に頸飾を受章しています。
ただし、安倍晋三のように両方を同じ日付で授与される例もあります。
【制度の実態】内閣府賞勲局の役割と2026年最新情報
大勲位菊花章頸飾は、一般の叙勲とは異なる非常に高い格式を持っています。
その授与を理解するには、内閣府賞勲局の役割と、勲章制度全体の選考方法を知る必要があります。
内閣府賞勲局は何をしているのか
内閣府賞勲局は、日本の勲章・褒章制度を所管する組織です。
内閣府の制度説明によると、一般的な春秋叙勲では次のような流れで受章者が決まります。
各省各庁の長による候補者推薦
内閣府賞勲局による審査・原案作成
閣議での決定
宮中での授与・天皇による親授
大勲位菊花章などの高位の勲章は、宮中で天皇から親授される制度です。
ただし、死亡叙勲や外国人への儀礼叙勲などは別の手続きや運用があり、すべてが通常の春秋叙勲と同じ流れになるわけではありません。
2026年11月現在、最新の受章者は誰?
2026年の最新情報を確認するうえで重要なのは、内閣府が公表する資料の基準日です。
内閣府の「栄典に関する資料集」には、令和8年(2026年)春までの春秋叙勲受章者数などが掲載されています。
一方、大勲位菊花章頸飾の個別受章者一覧は、令和7年(2025年)5月現在と明記されています。
その公開一覧に掲載されている戦後の日本人受章者は、次の4人です。
1. 吉田茂(1967年)
2. 佐藤栄作(1975年)
3. 中曽根康弘(2019年)
4. 安倍晋三(2022年)
外国人については、2024年6月14日のチャールズ3世まで掲載されています。
したがって、2026年版として更新された頸飾受章者名簿が公開されているわけではありません。2026年の新規受章者を断定する際には、通常の春秋叙勲の統計と頸飾の個別一覧を混同しないことが大切です。
首相経験者なら誰でも受章できるわけではない
もう一つ重要なのが、受章者の選定基準です。
戦後の日本人受章者が全員元首相であることから、首相を長期間務めれば自動的に受章できると考える人もいる可能性があります。
しかし、実際にはそうではありません。
内閣府の授与対象は、特定の役職や在任年数だけではなく、功労の大きさを基準としています。
また、首相経験者の中には大勲位菊花大綬章を受章していても、頸飾の受章者一覧には掲載されていない人物もいます。
大綬章と頸飾の受章歴を混同しないことが、歴代受章者を正確に理解するためのポイントです。
【よくある質問】大勲位菊花章頸飾に関するFAQ
Q1:大勲位菊花章頸飾は日本で一番格式の高い勲章ですか?
大勲位菊花章は日本の最高位の勲章です。その中でも頸飾は最上位の形式として位置付けられています。
Q2:大勲位菊花章頸飾を受章した日本人は誰ですか?
内閣府が公開する戦後の一般受章者一覧には、吉田茂、佐藤栄作、中曽根康弘、安倍晋三の4人が掲載されています。
Q3:大勲位菊花章頸飾と大勲位菊花大綬章は同じものですか?
同じ大勲位菊花章に属する異なる形式です。頸飾は首に掛ける形式、大綬章は肩から掛ける帯状の形式で、頸飾の方が上位です。
Q4:なぜ頸飾に「明」「治」という文字があるのですか?
明治21年に制定された勲章であることを表すためです。古篆字という伝統的な書体でデザインされています。
Q5:外国の大統領や国王も受章していますか?
はい。アイゼンハワー元米大統領、エリザベス2世元英国女王、チャールズ3世英国国王などが内閣府の戦後受章者一覧に掲載されています。
Q6:2026年に新しい日本人受章者はいますか?
2026年11月時点で確認できる内閣府の頸飾受章者一覧は令和7年5月現在の資料です。2026年版の更新済み名簿は確認できないため、新規受章者の有無については公式発表の確認が必要です。
まとめ:大勲位菊花章頸飾の格式と制度を正しく理解する
大勲位菊花章頸飾は、明治21年(1888年)に制定された日本の最高位の勲章の一つです。
「明」「治」の古篆字、菊花と菊葉、日の丸を象徴する日章と旭光など、そのデザインには日本の歴史と国家の象徴が組み込まれています。
戦後の日本人受章者は、吉田茂、佐藤栄作、中曽根康弘、安倍晋三の4人。いずれも元内閣総理大臣であり、特に安倍晋三は大勲位菊花大綬章と頸飾を同日に授与された人物です。
また、大勲位菊花大綬章との違いは、単なる見た目ではありません。首飾り形式の頸飾と、肩から掛ける大綬章では、制度上の格式も異なります。
【プロの結論】
大勲位菊花章頸飾を理解するうえで重要なのは、受章者の肩書だけで判断しないことです。
注目すべきなのは、制定された歴史的背景、国家に対する功績、外交上の位置付け、そして大綬章との授与関係です。
2026年現在も、内閣府の公式資料を基準に受章歴を確認することが、正確な情報を見極める最も確実な方法です。
大勲位菊花章頸飾は、単に豪華な首飾りではありません。明治から現代まで続く日本の栄典制度と、国家が特別な功績をどのように評価してきたかを象徴する歴史的な勲章なのです。