事件後の社内処分については、担当者個人への懲戒処分と、経営幹部に対する人事措置を分けて考える必要がある。
積水ハウスが2018年3月6日に公表した資料には、すでに実施された処分と人事変更が明記されている。
2017年に実施された3つの人事・処分
| 時期 | 対象 | 公表された措置 |
|---|---|---|
| 2017年9月7日 | 取締役 | 減俸処分を決定・実施 |
| 2017年12月8日 | マンション事業本部長(常務執行役員) | 辞任 |
| 2017年12月8日 | 法務部長(常務執行役員) | 部長職を解任 |
| 2017年12月8日 | 不動産部長(執行役員) | 部長職を解任 |
ここで重要なのは、「辞任」「職を解く」「減俸」は、それぞれ異なる措置だということだ。
マンション事業本部長は辞任した。一方、法務部長と不動産部長について会社が公表したのは、それぞれの部長職を解いたという人事措置である。
これは、直ちに懲戒解雇や会社からの退職を意味するものではない。
また、役員の減俸処分についても、2018年の公表資料では具体的な対象者や減額率の詳細までは示されていない。
現場の営業担当者は懲戒解雇されたのか
検索すると「積水ハウスの担当者はクビになったのか」という疑問も見られる。
しかし、会社の公表資料から確認できるのは、上記の役員処分や管理職の人事措置までだ。
A1営業次長について、懲戒解雇された、降格された、退職したといった個別の処遇を確定できる公式発表は見当たらない。
現場の責任が問われたことと、特定社員にどのような懲戒処分が下されたかは、別の問題として扱う必要がある。
阿部俊則氏と稲垣士郎氏の経営責任
経営トップの責任も事件後の大きな争点になった。
当時の役職は次のとおりだ。
- 阿部俊則氏: 事件当時の代表取締役社長
- 稲垣士郎氏: 事件当時の代表取締役副社長
2018年の調査対策委員会は、社長には取引全体を把握し重大なリスクを認識する責任があり、会長にも結果責任があるとの見解を示した。
一方、2020年の総括検証委員会は、経営陣を含む組織全体のガバナンス上の問題を改めて検証している。
つまり、責任問題は現場担当者だけにとどまらず、取引を監督する立場にあった役員や管理部門にも及んでいた。
【社内調査報告書の真相】担当者と地面師の内通疑惑はどうなった?

この事件では、巨額の詐欺被害が発生したことから、インターネット上でも「社内に協力者がいたのではないか」という疑問が取り上げられてきた。
特に、現場担当者と地面師側の関係を疑う声については、2020年の総括検証報告書が重要な結論を示している。
2018年の調査報告書と2020年の総括検証報告書は別物
最初に、2つの報告書を区別しておきたい。
2018年1月24日付の調査報告書
社外監査役・社外取締役を中心とする調査対策委員会が作成したもの。2018年3月6日に会社から経緯や責任に関する概要が公表された。
2020年12月7日付の総括検証報告書
独立性を確保した外部専門家による総括検証委員会が作成したもの。過去の調査内容だけでなく、取引の全容、社員の関与、社内風土、再発防止策の実効性まで検証した。
後者には2018年の調査報告書も添付され、これまで明らかになっていなかった詳細な経緯が公開された。
社員と地面師グループの内通は確認されたのか
2020年の総括検証委員会は、A1営業次長をはじめとする積水ハウスの役職員について、地面師グループや仲介者H1と不適切な関係にあった形跡は一切認められなかったと報告した。
加えて、刑事裁判でもそのような認定はなされていないと説明している。
注目すべきなのは、2018年の調査報告書にあった担当者と仲介者の不適切な関係を疑わせる記述についても、十分な証拠がないことを指摘し、その記載は適切ではなかったと評価した点だ。
したがって、担当者が地面師グループと共謀していたという説明は、公開された検証結果によって裏付けられていない。
事件の本質は、社員が詐欺に加担したことではなく、社員や管理職が詐欺グループに欺かれ、組織の牽制機能も働かなかったことにある。
2020年の検証で明らかになった再発防止策
総括検証委員会は、事件後に導入された対策についても調べている。
主な改善策は次のとおりだ。
- 経営会議による重要投資案件の審議・検証
- 部門間での情報共有と牽制機能の強化
- 電子稟議システムの改善
- 決裁後に新たな問題が発生した場合の報告義務の明確化
- 人事ローテーションによる専門知識の共有
- ガバナンス推進役を通じた社内連携の強化
また、2020年の社員アンケートでは、回答した43人のうち35人が再発防止策の周知・浸透は十分と回答した。残る8人は、おおむね周知されているものの十分でない点があるとの回答だった。
ただし、総括検証委員会は、施策が正常に運用されることを前提に一定の実効性を評価しており、組織改革には引き続き改善の余地があるとの見方も示している。
2026年現在、担当者は何をしている?
ここが検索ユーザーにとって最も気になる部分だろう。
2026年現在、公開された公式資料から整理できる状況は次のとおり。
| 対象 | 2026年現在の確認状況 |
|---|---|
| A1営業次長 | 実名・現職・退職の有無は公表資料から特定できない |
| マンション事業本部長 | 2017年12月8日に辞任したことが公表済み |
| 法務部長 | 2017年12月8日に部長職を解かれた |
| 不動産部長 | 2017年12月8日に部長職を解かれた |
| 阿部俊則氏 | 現行の積水ハウス役員一覧には掲載されていない |
| 稲垣士郎氏 | 現行の積水ハウス役員一覧には掲載されていない |
積水ハウスの現行役員一覧では、仲井嘉浩氏が代表取締役兼CEO・社長執行役員を務めている。
阿部氏や稲垣氏は、2022年の株主代表訴訟に関する会社発表でも元代表取締役として記載されている。
ただし、元役員の現在の生活状況や個人的な活動まで、会社の役員一覧から判断することはできない。
特にA1営業次長については、2026年現在の勤務先や職業を断定できる公表情報はない。事件後の処遇を推測で補うことはできない領域だ。
【裁判・判決の結果】地面師グループと経営陣の責任はどう判断された?
積水ハウス地面師事件では、詐欺を実行した地面師グループへの刑事裁判と、会社の経営陣の責任を問う株主代表訴訟が別々に行われた。
加えて、積水ハウス自身も地面師グループに損害賠償を請求している。
地面師グループ10人には有罪判決
積水ハウスの総括検証報告書によると、詐欺グループの構成員10人が起訴され、2019年10月から2020年6月までに東京地裁で全員に有罪判決が言い渡された。
2020年12月の報告書作成時点では、10人のうち6人の判決が確定し、4人が控訴中だった。
その後、主要人物のカミンスカス操については、懲役11年の有罪判決が確定したと報じられている。
この刑事裁判は、地面師グループが組織的に土地所有者になりすまし、積水ハウスから代金を詐取したことを司法の場で判断したものだ。
阿部俊則氏・稲垣士郎氏への株主代表訴訟
経営責任をめぐっては、個人株主が阿部俊則氏と稲垣士郎氏に対して損害賠償を求めた。
株主側の主張は、巨額損失を防げなかった経営判断や、社員に対する監督・監視体制の不備などについて、両氏に善管注意義務違反があったというものだった。
裁判の経過は以下のとおり。
| 日付 | 裁判の動き | 結果 |
|---|---|---|
| 2018年 | 株主代表訴訟を提起 | 阿部氏・稲垣氏が被告に |
| 2022年5月20日 | 大阪地裁で一審判決 | 株主側の請求を棄却 |
| 2022年12月8日 | 大阪高裁で控訴審判決 | 株主側の控訴を棄却 |
大阪地裁は、阿部氏らに対する損害賠償請求を認めなかった。
控訴審の大阪高裁も一審判決を支持し、株主側の控訴を棄却した。
裁判では、経営者の判断が明らかに不合理だったかどうかなどが争点となった。
ここで押さえたいのは、株主代表訴訟で経営陣への賠償請求が認められなかったことと、社内調査で組織上の問題が指摘されたことは矛盾しないという点だ。
企業の内部統制に問題があったという検証結果と、個々の取締役に法的な損害賠償責任を負わせられるかどうかは、異なる判断基準である。
2024年には地面師側に追加で10億円の賠償命令
事件後の民事訴訟にも動きがあった。
2024年11月27日、東京地裁は、積水ハウスが損害賠償を求めていた地面師グループのうち、争っていた内田マイク受刑者ら5人に対して、合計10億円の支払いを命じた。
裁判所は、被告らが土地所有者へのなりすましや詐欺行為を認識しながら関与したと判断し、共同不法行為の成立を認めた。
積水ハウスは事件に関わった10人を提訴しており、争わなかった残る5人についても、別の審理で賠償が命じられている。
ただし、判決による支払命令と、実際に損害額を全額回収できたことは同じではない。
2026年現在も、事件の被害回復という観点では、賠償命令の内容と実際の回収額を区別して見る必要がある。
地面師詐欺を見分けるための本人確認チェックポイント
この事件から一般の不動産購入者や不動産事業者が学べることもある。
特に、土地の売買では、本人確認書類があるというだけで安全だと判断してはいけない。
次のような確認が基本となる。
1. 登記情報を独立して確認する: 登記事項証明書などで登記名義人と権利関係を確認する。
2. 売主本人と直接面談する: 仲介者だけを通じたやり取りに頼らず、所有者本人との意思確認を行う。
3. 本人確認書類を多角的に照合する: 顔写真や住所、氏名、生年月日などを確認し、書類の真正性について専門家の確認を受ける。
4. 代理人の権限を確認する: 委任状だけでなく、本人への独立した照会などによって代理権を確認する。
5. 近隣情報を確認する: 長年の所有・居住状況などについて、独立した情報源から裏付けを取る。
6. 警告情報があれば決済を止める: 内容証明郵便、所有者からの異議、警察の関与などがあった場合は、契約の進行をいったん停止して調査する。
とりわけ注意したいのは、取引を急がせる相手や、所有者本人との面談を避ける相手、権利証などの重要書類を通常とは異なる方法で処理しようとする相手だ。
積水ハウスの事件では、警告情報が届いた後も、既存の本人確認や仮登記が済んでいることを理由に取引を進めてしまった。
不動産取引では、書類がそろっていることよりも、売主の本人性と売却意思が独立した方法で確認できていることが重要だ。
【積水ハウス地面師事件に関するよくある質問(FAQ)】
Q1:積水ハウス地面師事件の担当者は誰ですか?
A1:中心となって取引を進めたのは、当時の東京マンション事業部のA1営業次長です。ただし、2020年に公表された総括検証報告書では個人名が匿名化されており、公式資料から実名を特定することはできません。
Q2:積水ハウスの担当者は地面師と共謀していたのですか?
A2:2020年の外部専門家による総括検証では、A1営業次長を含む積水ハウスの役職員と地面師グループとの不適切な関係を示す形跡は認められなかったとされています。社員の共謀が認定された事件ではありません。
Q3:積水ハウス地面師事件の担当者は2026年現在どうしていますか?
A3:A1営業次長個人の現在の勤務先、在籍状況、退職の有無などは公表資料から確認できません。一方、マンション事業本部長の辞任、法務部長と不動産部長の部長職解除については、2017年12月8日付の人事措置として公表されています。
Q4:積水ハウスの約55億円の損失について、阿部俊則氏らは賠償したのですか?
A4:株主代表訴訟では、阿部俊則氏と稲垣士郎氏に対する損害賠償請求が2022年の大阪地裁で棄却され、同年の大阪高裁でも控訴が棄却されました。一方、地面師グループに対する損害賠償請求では、2024年11月にも東京地裁が5人に合計10億円の支払いを命じています。
まとめ:積水ハウス地面師事件から分かる担当者の責任と2026年現在
積水ハウス地面師事件の担当者を調べると、単純に一人の社員が55億円を失わせたという構図ではないことが分かる。
事件の中心となったのは東京マンション事業部のA1営業次長だが、2018年の調査対策委員会は、マンション事業本部、法務部、不動産部、経営幹部にもそれぞれの責任があったと指摘した。
公表済みの人事措置では、2017年9月に取締役の減俸処分が実施され、同年12月にはマンション事業本部長が辞任。法務部長と不動産部長も部長職を解かれている。
一方、現場担当者個人の懲戒解雇や現在の勤務先については、公表資料から特定できない。2020年の外部検証では、社員と地面師グループとの不適切な関係も確認されなかった。
【プロの結論】この事件で本当に問われたもの
この事件から得られる最大の教訓は、本人確認を一度済ませたからといって、その後に発生したリスク情報を無視してはいけないということだ。
特に企業の不動産取引では、次の3点が欠かせない。
- 現場担当者の判断を独立した管理部門が検証すること。
- 新しい警告情報が届いた場合、決裁後でも取引を停止できる仕組みを持つこと。
- 経営幹部が売上や事業機会だけでなく、取引の安全性にも責任を持つこと。
約55億5,900万円という損失は、偽造書類の巧妙さだけで発生したものではない。警告を受け取った後も取引を止められなかった組織の問題が、被害を拡大させた。
2026年現在、積水ハウス地面師事件を理解するうえで重要なのは、担当者個人の名前探しだけでなく、誰が取引を進め、誰が警告を受け取り、誰が最終的な判断を下したのかという責任の連鎖を理解することだ。
それこそが、この事件から不動産業界や企業経営者、そして土地の購入を検討する一般の人々が学ぶべき本質である。