プロファイリングとは、収集した情報や行動の特徴、過去のデータなどを分析し、特定の人物の性格、心理、行動傾向、属性などを推定する手法です。犯罪捜査では、事件現場の状況や犯行の特徴、被害者との関係、過去の類似事件などを手掛かりに、未知の犯人像を絞り込むために活用されています。一方、マーケティングやビジネス、心理学の分野でも、個人の興味や意思決定の傾向を把握する目的で利用されています。
2026年現在、プロファイリングは従来の経験や心理学的な分析に加え、統計解析、機械学習、地理情報分析などを組み合わせる方向へ進化しています。ただし、プロファイリングは人物の名前や犯人を直接特定する技術ではありません。どのような情報から人物像を推定するのか、犯罪心理学との違いは何か、分析結果をどこまで信用できるのか。日本の警察の研究成果や海外の事例を交えながら、仕組みから最新技術、限界まで詳しく解説します。
【基本から理解】プロファイリングとは?意味・目的と心理学との違い

プロファイリング(Profiling)は、英語の「Profile」に由来する言葉です。対象となる人物や集団について、複数の情報を整理・分析し、その特徴を一つの人物像としてまとめることを意味します。
日本語では「人物像の分析」「人物特性の推定」「行動傾向の分析」などと表現されます。単純に性格を判断することではなく、観察できる情報と一定の分析方法に基づいて、目に見えない特徴を推定する点が重要です。
プロファイリングの主な目的
プロファイリングの目的は、分野によって異なります。犯罪捜査では未知の犯人に関する仮説を立て、捜査の優先順位を検討するために使われます。
一方、一般的な人物分析では、対象者の行動や発言、選択の傾向などから、その人の特徴を理解することが目的になります。
- 犯罪捜査:犯人の行動特性、犯行傾向、被害者の選択傾向などを推定する。
- 心理学:心理的特徴や行動パターンを研究し、個人の特性を理解する。
- マーケティング:購買履歴や閲覧履歴などから消費者の興味やニーズを分析する。
- ビジネス:顧客層や組織内の行動傾向を把握し、サービスや業務の改善に役立てる。
- セキュリティ:不審な行動パターンやリスクの兆候を把握し、適切な対応を検討する。
プロファイリングと心理学の違い
プロファイリングと心理学は密接に関係していますが、同じものではありません。
心理学は、人間の心や行動の仕組みを科学的に研究する学問です。認知、感情、記憶、性格、対人関係など、幅広いテーマを扱います。
それに対してプロファイリングは、収集した情報を分析して、特定の人物や集団について特徴を推定する実践的な手法です。心理学の知識を利用することはありますが、統計学、犯罪学、社会学、地理情報分析なども関係します。
| 比較項目 | プロファイリング | 心理学 |
|---|---|---|
| 基本的な意味 | 情報から人物像や行動傾向を推定する手法 | 人間の心や行動を研究する学問 |
| 主な目的 | 対象者の特徴や行動を予測・理解する | 心理や行動の仕組みを解明する |
| 分析対象 | 個人、集団、未知の犯人など | 人間の心理・認知・行動全般 |
| 主な方法 | 行動分析、統計分析、データ比較 | 実験、調査、観察、心理検査 |
| 代表的な活用先 | 犯罪捜査、マーケティング、人物分析 | 教育、医療、研究、産業、司法 |
つまり、心理学が人間の心や行動を研究する学問であるのに対し、プロファイリングは複数の情報を使って対象者の特徴を推定する分析手法です。
犯罪心理学との関係
犯罪心理学は、犯罪に関係する人間の心理や行動、犯罪に至る背景などを研究する分野です。犯罪者プロファイリングでは、その研究成果を捜査に応用することがあります。
ただし、犯罪心理学そのものが犯人を特定する技術なのではありません。犯罪が発生する背景を理解する研究と、個別事件の情報から犯人像を推定する実務は、関連していても役割が異なります。
【仕組みとやり方】プロファイリングはどのような流れで行われる?
プロファイリングの基本的な仕組みは、情報収集、特徴の整理、比較分析、仮説の作成、検証という流れで成り立っています。
映画やドラマでは、専門家が少しの情報から相手の性格や過去を言い当てる場面が描かれます。しかし、実際の分析では一つの情報だけで人物像を決めることはありません。複数の情報を照合し、矛盾がないかを確認することが欠かせません。
プロファイリングの基本的な6段階
1.情報を収集する
最初に、対象者や事件に関する情報を集めます。犯罪捜査であれば、事件の経緯、現場の状況、被害者に関する情報、目撃証言、過去の類似事件などが対象です。一般的な人物分析では、発言、行動、選択、継続的な行動傾向などを整理します。
2.情報を分類する
収集した情報を、行動、環境、時間、対象者との関係などに分類します。情報の出所や信頼性も確認し、事実と推測を混同しないようにします。
3.共通点や特徴を分析する
複数の情報を比較し、繰り返し現れる行動や特徴を探します。特定の状況で同じ選択が繰り返されている場合、その背景にある行動傾向を検討します。
4.仮説を立てる
確認できた特徴をもとに、対象者の属性や心理的傾向、行動の特徴などについて複数の仮説を作ります。この段階では、推定の確実性や別の説明が成立する可能性も考慮します。
5.追加情報と照合する
仮説が実際の情報と整合しているかを確認します。矛盾する情報があれば仮説を修正し、必要に応じて別の可能性を検討します。
6.分析結果をまとめる
最後に、分析結果とその根拠、推定の確度、残された不確実性などを整理します。犯罪捜査では、捜査方針や追加調査を検討するための補助情報として利用されます。
人物分析と性格プロファイリングの具体例
一般的な人物分析でも、プロファイリングの考え方を利用できます。
例えば、ある人物が仕事でどのような意思決定をするかを理解したい場合、発言だけでなく、実際の行動、選択の一貫性、過去の判断、周囲との関わり方などを総合的に確認します。
慎重な判断を繰り返す人であれば、リスクを重視する傾向があるという仮説を立てられます。しかし、それだけで「慎重な性格」と断定することはできません。状況によって行動が変わる可能性があるためです。
性格プロファイリングは、相手を理解するための仮説を作る手段としては役立ちますが、医学的な診断や正式な心理検査の代わりにはなりません。
【犯罪捜査での活用】犯罪者プロファイリング・行動分析・統計的手法の違い
プロファイリングが広く知られるきっかけとなったのが、犯罪捜査への応用です。犯罪者プロファイリングでは、事件の情報を分析し、未知の犯人の特徴や行動傾向を推定します。
日本の警察庁に所属する科学警察研究所の捜査支援研究室でも、行動科学の視点から犯罪捜査を支援する研究が行われています。対象には連続して発生する性犯罪、放火、通り魔などが含まれ、同一犯による事件かどうかの判定や、犯人の特徴・居住地などを推定する方法が研究されています。
1.行動分析によるプロファイリング
行動分析は、事件や対象者の行動に注目し、その特徴や一貫性を把握する方法です。
犯罪捜査では、犯行の経緯、被害者との関係、行動の反復性、事件ごとの共通点などを分析します。複数の事件に似た行動上の特徴が見つかった場合、同一人物による犯行である可能性を検討する材料になります。
FBI(米連邦捜査局)の行動分析部門も、犯人の動機、被害者の選択、行動の特徴、事件との関係などを分析し、捜査戦略や面接方針に関する助言を行っています。
2.統計的プロファイリング
統計的プロファイリングは、過去の犯罪情報をデータベース化し、複数の事件に見られる傾向を統計的に分析する手法です。
科学警察研究所の説明によると、被害者の特徴、犯行中の言動、犯罪手口の反復性などに着目し、犯人像を定量的に推定します。
個別事件を専門家の経験だけで判断するのではなく、多数の事件に共通する傾向を分析できる点が特徴です。
ただし、統計的に多い特徴が、個別の事件にも必ず当てはまるわけではありません。分析対象のデータが偏っていたり、対象となる事件の種類が異なっていたりすると、推定結果の信頼性は低下します。
3.地理的プロファイリング
地理的プロファイリングは、事件が発生した場所や複数の事件現場の位置関係などを分析し、犯人の生活圏や活動拠点に関する可能性を推定する方法です。
犯罪が発生した地点の分布だけでなく、地域の人口構成、移動に関係する環境条件、地点間の距離なども分析対象になります。
日本の科学警察研究所では、確率距離法や機械学習を活用した地理的プロファイリングの高度化に関する研究が進められました。2019年4月から2022年3月までの研究では、全国データによる精度検証、日本の事件の特徴を踏まえたパラメータ設定、新たな拠点推定モデルの構築などが実施されています。
地理的プロファイリングの目的は、犯人の住所を地図上で確定することではありません。複数の情報から活動拠点の可能性を検討し、捜査を支援することにあります。
3つの分析手法はどう違う?
| 分析手法 | 主な分析対象 | 推定する内容 | 捜査での役割 |
|---|---|---|---|
| 行動分析 | 犯行の特徴や行動の共通性 | 行動傾向、事件間の類似性 | 事件の関連性や捜査方針の検討 |
| 統計的プロファイリング | 過去の犯罪データ | 犯人の属性や特徴の傾向 | 客観的なデータに基づく犯人像の推定 |
| 地理的プロファイリング | 事件現場の位置情報や地域特性 | 活動拠点や行動範囲の可能性 | 地理的な捜査対象の検討 |
これらは互いに排他的な手法ではありません。実際の犯罪捜査では、行動の特徴、統計的な傾向、地理的な情報を組み合わせて分析することがあります。
犯罪捜査での具体的な活用事例
プロファイリングが活用される代表的な場面は、連続して発生する事件の関連性を検討するケースです。
例えば、複数の放火事件が発生した場合、事件ごとの特徴や共通する行動パターンを比較し、同一犯による犯行の可能性を検討します。
また、連続する性犯罪や窃盗事件では、事件の類似性や対象選択の特徴などを分析することで、捜査対象を整理する材料になります。
FBIが運用する暴力犯罪データベース「ViCAP(Violent Criminal Apprehension Program)」も、異なる地域で発生した事件の関連性を検討するための仕組みです。1985年に設立されたこのプログラムでは、連続性が疑われる殺人や性犯罪、行方不明事案などの情報を集約し、事件間の共通点を分析しています。
このように、プロファイリングは事件の全体像を整理し、捜査の方向性を検討するために活用されています。
【歴史と日本の実績】プロファイリングはいつ始まった?国内外の発展を整理
犯罪者プロファイリングの歴史は、現代の科学的な分析手法が整備される以前にまでさかのぼります。当初は事件に関わる専門家の経験や観察を中心とした推定でしたが、その後、心理学や統計学を取り入れた研究へと発展しました。
プロファイリングの歴史と主な転換点
1880年代のイギリスでは、切り裂きジャック事件に関連して、医師のジョージ・フィリップスやトーマス・ボンドらが現場情報から犯人像を推定したことが、初期の事例として紹介されています。
1956年には、アメリカの精神科医ジェームズ・ブルッセルが、ニューヨークで発生した連続爆破事件について犯人像を分析しました。その推定は捜査の参考となり、犯人のジョージ・メテスキーは1957年1月に逮捕されています。
その後、FBIが行動科学の研究を組織的に進め、犯罪捜査におけるプロファイリングの体系化を推進しました。
| 時期 | 人物・組織・出来事 | 発展のポイント |
|---|---|---|
| 1880年代 | イギリスの切り裂きジャック事件 | 医師による現場情報からの犯人像の推定 |
| 1956~1957年 | ジェームズ・ブルッセルの分析 | ニューヨーク連続爆破事件の捜査で人物像の推定が活用された |
| 1972年 | FBI行動科学部門(BSU)の設立 | 連続性犯罪や殺人事件などの行動分析を組織的に研究 |
| 1985年 | FBIのNCAVC・ViCAP | 暴力犯罪の分析や事件間の関連性の検討を強化 |
| 1990年代以降 | 捜査心理学・統計的研究の発展 | 経験的な推定に加え、実証研究や統計分析を重視 |
| 2000年代以降 | 日本の警察における活用の拡大 | 犯罪者の行動傾向を分析する捜査支援手法として普及 |
| 2019~2022年 | 科学警察研究所の地理的プロファイリング研究 | 機械学習や確率距離法を活用した拠点推定モデルと分析ソフトウェアを開発 |
| 2024年 | 地理的プロファイリングの精度に関する研究 | 事件件数と分析手法による推定精度の違いを検証 |
| 2026年 | AIを活用した犯罪司法分野の分析技術 | 大量データ処理、予測、分析支援と人間による監督のあり方が焦点に |
日本のプロファイリング研究と実務
日本では、警察庁の科学警察研究所を中心に、犯罪行動科学に基づく研究が進められています。
2017年に学術誌「International Journal of Police Science & Management」で公表された、日本の犯罪者プロファイリングの実務に関する研究では、2011~2012年に分析担当者156人を対象とした全国調査が行われました。また、296件の解決済み事件を用いて、分析内容や推定精度も検討されています。
同研究では、プロファイリングに携わる人のうち、76%が警察の捜査員、19%が心理学的業務に従事する科学捜査研究所の専門職でした。
加えて、プロファイリングの結果が犯人の特定につながったとされた割合は46%でした。事件間の関連性については、既知の事件を正しく結び付けられなかった割合が15%と報告されています。
犯人の特徴を推定する分析では、移動手段の推定精度が72%、性別の推定精度が100%という結果も示されました。
ただし、これらは2011~2012年の調査と296件の解決済み事件に基づく研究結果です。2026年のすべての事件に当てはまる精度や、現在の警察全体の成功率を意味するものではありません。
それでも、日本国内でプロファイリングが単なる理論ではなく、実際の捜査支援に利用されてきたことを示す重要な研究です。
【2026年最新技術】AI・機械学習によってプロファイリングはどう進化した?
2026年のプロファイリングを理解するうえで重要なのが、AIと機械学習の活用です。従来は専門家が膨大な事件情報を確認し、共通点を探す必要がありました。現在は、コンピューターによるデータ処理を組み合わせることで、より広範囲の情報を比較・分析できるようになっています。
機械学習による統計的プロファイリング
機械学習は、大量のデータから一定のパターンや関係性を見つける技術です。
犯罪捜査では、過去の事件情報を分析し、事件間の類似性や犯行傾向、地域的な特徴などを検討するために応用できます。
科学警察研究所の2019~2022年度の地理的プロファイリング研究では、機械学習を取り入れた新たな拠点推定モデルが構築され、実務で高度な分析を行うための犯罪者プロファイリング分析ソフトウェアも開発されました。
加えて、研究成果は都道府県警察の分析担当者が利用する標準的な分析手続きに組み込まれ、法科学研修所での教育や警察庁主催の全国向けオンライン説明会を通じて共有されています。
この研究は、日本におけるプロファイリングが、経験だけに依存する分析から、統計モデルや機械学習を取り入れた実務へと発展していることを示しています。
地理情報システムと位置情報分析
地理的プロファイリングでは、事件の発生地点や地域特性などをデータとして扱います。
2024年1月に公表された地理的プロファイリングの精度に関する研究では、計333人の窃盗犯のデータを用い、事件件数の違いによって分析精度がどのように変わるかが検証されました。
研究では、分析対象となる事件件数のグループや分析方法によって精度に違いが見られ、確率距離法が事件件数の増加に伴って有効性を高める傾向も示されました。
重要なのは、事件の数を増やせば必ず推定が正確になるわけではないという点です。対象となる犯罪の種類やデータの性質、採用するモデルによって結果は変わります。
生成AIと犯罪情報の分析支援
2026年には、生成AIを含むAI技術が犯罪司法分野のさまざまな業務に関わるようになっています。
2026年5月に公表された、RANDとCouncil on Criminal Justiceによる犯罪司法分野のAI活用に関する報告書では、警察活動における顔認識、自動的な報告書作成、分類、暴力リスクの予測など、幅広い用途が整理されています。
生成AIやデータ分析技術は、大量の記録の要約、情報の分類、事件情報の比較といった作業を支援する可能性があります。
ただし、AIによる情報処理と犯罪者プロファイリングは同じものではありません。AIが出した予測結果が、そのまま犯人像の確定や人物の有罪判断につながるわけではありません。
2026年に重視されるAI利用の安全性と透明性
AIの利用が広がるほど、分析結果をどのように検証するかが重要になります。
2026年3月に公表されたCouncil on Criminal JusticeのAI評価フレームワークでは、犯罪司法分野でAIを導入する際の独立した精度検証、継続的な監視、公平性の評価、利用者への教育、人間による監督などが重視されています。
特に注意が必要なのが、オートメーション・バイアスです。これは、コンピューターやAIが出した結果を、人間が十分に検証せず正しいものとして受け入れてしまう傾向を指します。
過去の犯罪データに偏りがあれば、AIの分析結果にも偏りが反映される可能性があります。また、AIの判断根拠が不透明な場合、誤った推定がどこから生まれたのかを確認することも難しくなります。
2026年の技術的な進化を評価するうえでは、分析速度やデータ処理能力だけでなく、説明可能性、検証可能性、公平性を含めて考える必要があります。
【限界と問題点】プロファイリングだけでは犯人を特定できない理由
プロファイリングには、事件の全体像を整理し、捜査の可能性を広げる利点があります。しかし、分析結果には必ず一定の不確実性があります。
特に注意したいのは、推定された人物像と実際の犯人が一致するとは限らないことです。どれほど高度な統計モデルや専門知識を利用しても、限られた情報から人物のすべてを把握することはできません。
1.分析結果は確率的な推定にすぎない
プロファイリングは、確認された情報から可能性の高い特徴を推定する手法です。
例えば、ある事件の特徴から特定の行動傾向を持つ人物が考えられたとしても、それ以外の人物が犯人である可能性は残ります。
推定結果を確定的な事実として扱うと、別の可能性を見落とす危険があります。
2.分析する人によって結果が変わる
経験や専門知識に基づく分析には、分析者の主観が入り込む余地があります。
同じ事件情報を見ても、専門家によって注目する特徴や解釈が異なる場合があります。そのため、分析手順を標準化し、根拠を明確にすることが大切です。
FBIの法執行機関向け研究資料でも、プロファイリングの一般化しすぎた推定や、根拠の乏しい動機の断定には注意が必要だと指摘されています。分析結果に過度に依存すると、捜査対象の優先順位を誤り、捜査資源の配分や事件解決に悪影響を与える可能性があります。
3.統計データの偏りが推定に影響する
統計的プロファイリングでは、過去の事件データの質が分析結果を左右します。
データが特定の地域や犯罪の種類に偏っていれば、そこから導き出された傾向を別の地域や異なる事件にそのまま当てはめることはできません。
また、少数の事件だけを対象にした分析では、偶然の共通点を重要な特徴として誤認する可能性もあります。
4.地理的プロファイリングにも精度の限界がある
地理的プロファイリングは、事件の発生場所から活動拠点を推定するものですが、すべての犯人が同じ行動範囲や生活パターンを持っているわけではありません。
移動手段、生活環境、地域の特徴、事件の種類などによって、事件現場の分布は変化します。
そのため、推定されたエリアだけに捜査を集中させるのではなく、ほかの証拠や情報と組み合わせて判断することが必要です。
5.人物の属性による決めつけやプライバシー侵害
一般的な人物分析でも、プロファイリングの誤用には注意が必要です。
年齢、職業、居住地、趣味、SNSでの発言など、限られた情報だけから人物の性格や危険性を決めつけることは適切ではありません。
特に、犯罪歴や個人情報、健康状態などのセンシティブな情報を扱う場合には、利用目的や情報管理に十分な配慮が必要です。
マーケティングや採用活動などで人物プロファイリングを利用する場合も、本人の同意、プライバシー、公平性を考慮しなければなりません。
6.心理学的な推定と医学的診断は異なる
犯罪者プロファイリングによって、特定の心理的特徴や行動傾向が推定されたとしても、それだけで精神疾患や人格障害などを診断することはできません。
心理的な特徴の推定と医学的な診断は、目的も必要な評価方法も異なります。犯罪を起こしたという事実だけから、特定の精神状態や性格を決めつけることも避けるべきです。
プロファイリングの価値は、犯人を決めつけることではなく、複数の可能性を比較し、調査や検証を進めるための判断材料を提供することにあります。
【プロファイリングを正しく理解する】活用に向いている場面と避けたい使い方
プロファイリングは、情報を整理し、行動の特徴を理解するために有効な考え方です。しかし、すべての場面に適しているわけではありません。
プロファイリングが役立つ場面
- 情報が複数存在する場合:複数の記録や行動を比較することで、共通点や傾向を整理できる。
- 繰り返される行動を分析する場合:継続的な行動から、一定のパターンを検討できる。
- 複数の仮説を比較する場合:異なる可能性を整理し、追加調査の方向性を考えられる。
- データに基づく意思決定を行う場合:経験や印象だけに依存しない判断材料を用意できる。
おすすめできない使い方
- 一度の発言や行動だけで相手の性格を断定する。
- SNSの投稿だけで犯罪性や精神状態を決めつける。
- 統計上の傾向を個人に無条件で当てはめる。
- AIの推定結果を人間による検証なしで採用する。
- 分析結果だけを根拠に、人物の採用や排除、犯罪の疑いなどを判断する。
信頼できるプロファイリングを見極める4つの基準
プロファイリングの結果を参考にする場合は、次の4点を確認するとよいでしょう。
① 分析の根拠が明確か。 どの情報を使い、どのような理由で結論に至ったのかが説明されている必要があります。
② 事実と推定が区別されているか。 確認済みの情報と、分析によって導き出された仮説が混同されていないかを確認します。
③ 反対の可能性も検討しているか。 最初に立てた仮説に都合のよい情報だけを集めていないかが重要です。
④ 別の証拠による検証が行われているか。 プロファイリングの結果だけに依存せず、客観的な資料や独立した情報によって確かめる必要があります。
【よくある質問】プロファイリングとは何かに関するFAQ
Q1:プロファイリングとは簡単にいうと何ですか?
A1:プロファイリングとは、人物の行動や発言、過去の情報、統計データなどを分析し、性格や行動傾向、人物像などを推定する手法です。犯罪捜査だけでなく、心理学、マーケティング、ビジネスなど幅広い分野で利用されています。
Q2:プロファイリングで犯人を特定できますか?
A2:プロファイリングだけで犯人の名前や身元を特定することはできません。犯行の特徴や行動傾向、活動拠点などを推定し、捜査対象や捜査方針を検討するための補助情報として利用されます。最終的な判断には、客観的な証拠や捜査による確認が必要です。
Q3:プロファイリングと心理学は何が違いますか?
A3:心理学は人間の心や行動を科学的に研究する学問であり、プロファイリングは情報を分析して対象者の特徴を推定する手法です。プロファイリングでは心理学の知識だけでなく、統計学、犯罪学、行動科学、地理情報分析なども活用されます。
Q4:2026年のプロファイリングにはAIが使われていますか?
A4:はい。機械学習による統計分析、地理的プロファイリング、情報の分類や比較などにAI技術が応用されています。日本の科学警察研究所でも機械学習を取り入れた地理的プロファイリングの研究や分析ソフトウェアの開発が行われています。ただし、AIの推定結果には誤差や偏りがあるため、専門家による検証が必要です。
Q5:一般の人でもプロファイリングはできますか?
A5:日常生活で相手の発言や行動から傾向を考えることはできます。ただし、それは専門的な犯罪者プロファイリングとは異なります。限られた情報から相手の性格や心理を断定せず、あくまで仮説として扱うことが大切です。
まとめ:【プロの結論】プロファイリングの本質と2026年以降の展望
プロファイリングとは、情報を分析して人物像や行動傾向を推定する手法です。犯罪捜査では、犯罪心理学や行動分析、統計的プロファイリング、地理的プロファイリングなどを通じて、未知の犯人に関する仮説を立て、捜査を支援する役割を果たしています。
その歴史は19世紀の事件分析にまでさかのぼり、FBIの行動科学研究や日本の科学警察研究所の研究を通じて、経験に基づく推定から統計学や機械学習を取り入れた分析へと発展してきました。
2026年にはAIによるデータ分析や情報処理の高度化が進んでいます。日本でも地理的プロファイリングの研究成果が実務に取り入れられており、今後はデータの質や分析の透明性、AIの公平性、人間による検証がさらに重要になると考えられます。
【プロの結論】 プロファイリングを理解するうえで最も重要なのは、「人物像を推定すること」と「人物を特定すること」を区別することです。どれほど高度な分析技術を使っても、推定は推定であり、確定した事実とは異なります。
優れたプロファイリングは、一つの結論を押し付けるものではありません。客観的な情報を整理し、複数の可能性を比較し、誤った判断を避けながら、次に何を検証すべきかを明確にするものです。
AIや統計技術が進化する2026年以降も、この基本は変わりません。技術の高度さだけではなく、分析の根拠、推定の限界、最終判断における人間の責任まで理解することが、プロファイリングを正しく活用するための条件です。
主な事実確認資料: 警察庁・科学警察研究所の研究資料、FBI公式の行動分析・犯罪捜査資料、2017年の日本の犯罪者プロファイリング実務研究、2024年の地理的プロファイリング精度研究、2026年のCouncil on Criminal JusticeおよびRANDのAI関連報告書。