『まんが日本昔ばなし』と聞けば、市原悦子と常田富士男の温かみのある語りや、日本各地に伝わる懐かしい民話を思い浮かべる人は多い。しかし、この国民的アニメには、大人になってから見返しても背筋が凍るような恐怖回が数多く存在する。「三本枝のかみそり狐」「飯降山」「吉作落とし」は、その代表格だ。赤ん坊をめぐる錯覚、信仰を失った人間の欲望、絶壁に取り残された男の絶望など、単なる妖怪や幽霊の登場だけでは説明できない怖さが描かれている。
2026年は、番組の生誕50周年を記念し、キッズステーションでデジタルリマスター版の放送も始まった。改めて注目される名作怪談について、放送時期やあらすじ、恐怖の種類、後味の悪さを比較する。さらに「耳なし芳一」の放送作品に関する混同や、船幽霊と柄杓にまつわる民俗伝承も整理し、今見ても怖い理由を掘り下げる。
【2026年最新】まんが日本昔ばなしとは?放送時期と怖い話が生まれた背景

『まんが日本昔ばなし』は、1975年1月7日に放送が始まったテレビアニメだ。日本各地に伝わる昔話や伝承を映像化し、毎回異なる人物や舞台を描く独立した短編形式で親しまれた。
企画・製作は川内彩友美、監修は川内康範。制作には愛企画センターやグループ・タックが関わり、市原悦子と常田富士男の二人が多彩な登場人物を演じ分ける独特の語りも作品の大きな魅力だった。
放送期間は1975年から1994年まで。オールシネマなどの作品データでは、テレビ放送期間は1994年9月3日までと記録されている。約20年にわたって親しまれ、1400話を超える作品が制作された長寿番組である。
2026年3月、デジタルリマスター版が放送開始
2026年2月12日、キッズステーションを運営するアニマックスブロードキャスト・ジャパンは、『まんが日本昔ばなし』の放送開始を発表した。
2026年3月20日から放送が始まり、発表時の編成は月曜日から金曜日の8時、16時、23時の各時間帯だった。
今回の放送では、フィルムで保管されていた原盤にデジタルリマスターを施している。昔ながらの映像の質感を残しながら、現在の視聴環境でも鮮明に楽しめるようにしたものだ。
ただし、再放送される作品がすべて恐怖回というわけではない。発表された放送エピソードの例には「笠地蔵」「かぐや姫」「三年寝太郎」「鶴の恩返し」などが含まれている。
2026年は懐かしさだけでなく、当時の映像表現や民話の残酷さを改めて見直す機会にもなっている。
【最恐ランキング】まんが日本昔ばなしの怖い話7選!トラウマ回を厳選
怖さの評価は、怪物の造形だけでは決まらない。物語の残酷さ、映像の不気味さ、登場人物が追い詰められる過程、最後に残る後味の悪さも大きな要素だ。
ここでは、長年恐怖回として取り上げられてきた作品から、物語の完成度と恐怖の印象を基準に7作品を選んだ。順位は公式な人気投票ではなく、作品の恐怖表現を比較した編集上の評価である。
第1位:三本枝のかみそり狐|善意のつもりが取り返しのつかない恐怖に変わる
放送日:1991年8月31日
「三本枝のかみそり狐」は、『まんが日本昔ばなし』のトラウマ回を語る際に、必ずといってよいほど名前が挙がる作品だ。
舞台は、人を化かす狐が住むと恐れられている村はずれの竹やぶ「三本枝」。村人たちが狐を警戒するなか、彦兵衛という若者だけは迷信だと笑い、夕暮れの竹やぶへ出かけていく。
そこで彦兵衛は、赤ん坊を背負った若い女性を見つける。こんな時間に女性が一人で歩いているのは狐の仕業に違いないと考え、後をつけることにした。
女性が入った家には、年老いた母親が待っていた。娘と孫の帰宅を喜ぶ老婆の姿を見た彦兵衛は、赤ん坊も狐が化けた偽物だと決めつける。そして、老婆から赤ん坊を奪い、囲炉裏に投げ込んでしまう。
しかし、赤ん坊は燃え上がる火の中で泣き叫ぶ。彦兵衛は自分が取り返しのつかないことをしたと思い、恐怖と後悔に襲われる。
加えて、孫を殺された老婆が恐ろしい姿となって彦兵衛を追いかける。山寺の和尚に助けられた後も、不気味な出来事は続いていく。
物語の最後には狐による化かしの仕掛けが明らかになるが、視聴者に残るのは単純な安心感ではない。
怖さの核心は、主人公が自分の正義を信じたまま、取り返しのつかない行動に出てしまうことだ。
狐を退治するつもりだった若者が、疑うことをやめられなかったために恐怖の中心へ転落する。この構造は、子ども向けの昔話としては非常に強烈である。
第2位:飯降山|信仰と欲望が崩壊させる人間の恐ろしさ
放送日:1994年8月27日
「飯降山(いぶりやま)」は、怪物や幽霊が登場する作品とは異なる意味で最恐と呼ばれる一話だ。恐怖の原因は、超常現象よりも人間の欲望にある。
物語では、三人の尼僧が山に入って修行を続けている。食料が乏しい山中で、彼女たちのもとには不思議なことに、毎日空からご飯の入った鉢が降ってくる。
最初は神仏からの恵みとして感謝していた三人だったが、やがて一人分の食事では満足できなくなる。
もっと多く食べたいという欲望に支配された尼僧たちは、仲間を崖から突き落とすという恐ろしい行動に出る。
ところが、仲間を減らしても食事の量は期待したようには増えない。最後に残った一人が独り占めを望んだとき、空から鉢が降ってくる現象そのものが途絶えてしまう。
生き残った尼僧は衰弱し、山を下りて人々に食べ物を求める。信仰によって救われていたはずの人間が、自分の欲望によって破滅していく展開が描かれる。
この作品は、漫画家いがらしみきおが演出・文芸を担当したことでも知られる。『ぼのぼの』とは大きく異なる冷酷な人間描写が特徴で、1994年8月27日の放送回は、レギュラー放送の最終盤を飾る作品となった。
怪談研究家の吉田悠軌は、2025年のウェブムーの記事で、飯降山に伝わる民話の成立背景や、作品の解釈を掘り下げている。
特に興味深いのは、伊集院光が2014年12月のラジオ番組で、人肉食を連想させる解釈を提示したことだ。生き残った尼僧の証言を疑えば、別の恐ろしい真相が浮かび上がるという考察である。
ただし、人肉食が作品の公式設定として確定しているわけではない。吉田悠軌は、原話とアニメ版の双方について、その解釈をそのまま事実とすることには慎重な見方を示している。
飯降山の恐怖は、視聴者が物語の語り手を信じてよいのかという疑問まで生み出すところにある。
第3位:吉作落とし|誰にも助けてもらえない絶望が生む恐怖
放送日:1988年10月29日
「吉作落とし(きっさくおとし)」は、怪異が登場しないにもかかわらず、強烈な恐怖を残す作品だ。
大分県の里に住む青年・吉作は、山の岩壁に生える岩茸を採ることを得意としていた。ある日、普段は行かない岩場で大量の岩茸を見つけ、夢中になって採取する。
ひと休みするために身体を固定していた綱を外した吉作は、再び帰ろうとしたとき、自分を支えていた綱が手の届かない場所まで移動していることに気づく。
自力では登れず、身動きも取れない。吉作は里に向かって助けを求めるが、山に反響する声は化け物の叫びのように聞こえ、誰も助けに来ない。
時間が過ぎるにつれて体力も気力も失われ、吉作は正常な判断ができなくなっていく。そして、崖の下に鳥のように着地できると考え、ついに飛び降りてしまう。
この物語が怖いのは、現実に起こり得る事故を扱っている点だ。
幽霊に襲われるわけでも、妖怪に追いかけられるわけでもない。自分の判断ミスから逃げ場を失い、助けを呼んでも誰にも届かず、最後には自分自身で命を絶つような選択をしてしまう。
「助かる可能性が残っているのに、本人にはそれが見えなくなる」という心理的な恐怖が、吉作落としの最大の特徴である。
子どもの頃に見た人が大人になってからも忘れられないのは、怪物よりも人間の孤独と絶望がリアルに描かれているからだ。
第4位:十六人谷|柳の木を切ったことで始まる凄惨な怪談
放送日:1983年12月3日
「十六人谷」は、山に伝わる禁忌を破った人々が恐ろしい運命を迎える作品だ。
主人公は、木こりの弥助。若い頃、仲間の通夜から帰った夜に不思議な女性と出会う。その女性は、翌日に谷へ行っても柳の木だけは切らないでほしいと頼む。
しかし、翌日になって弥助が15人の仲間と山へ入ると、立派な柳の木が見つかる。弥助は昨夜の女性を目撃して仲間たちを止めようとするが、彼らは忠告を聞かずに木を切り倒してしまう。
その晩、山小屋に現れた女性は、眠っている木こりたちに次々と口づけをする。そして、彼らの舌を引き抜いて命を奪っていく。
弥助だけは山刀で反撃して生き延びるが、恐ろしい話はそこで終わらない。
年老いた弥助が自分の過去を語り終えたとき、話を聞いていた女性こそ、かつて山で出会った存在だったと明らかになる。
禁忌を破った集団の惨劇と、過去の出来事が現在に戻ってくる構成が、強い恐怖を生み出している。
第5位:牛鬼淵|同じ質問を繰り返す怪物の不気味さ
放送日:1978年3月11日
「牛鬼淵(うしおにぶち)」は、伊勢の山奥に伝わる牛鬼の恐ろしさを描いた作品だ。
山小屋で働く年寄りの木こりと若い木こり。年寄りは毎晩、仕事道具であるノコギリの手入れを欠かさない。一方、若い木こりは山の危険をあまり気にせず、酒を飲んで過ごしていた。
そんな二人の小屋に、夜になると不思議な男が現れる。男はノコギリを見て、何度も同じ質問を繰り返す。
年寄りの木こりは、ノコギリの32枚目の刃は鬼刃と呼ばれ、鬼を退治するための特別な刃だと説明する。
ところが、ある日、作業中にその鬼刃が折れてしまう。年寄りは修理のために山を下りるが、若者は忠告を聞かず一人で小屋に残る。
再び現れた男に、若者は鬼刃が折れたことを正直に話してしまう。すると男は恐ろしい正体を現し、若い木こりを襲う。
この作品の怖さは、怪物がいきなり襲いかかってくるのではなく、何度も同じ質問をして相手の状況を確認しているように見えるところだ。
何気ない会話が、実は命を狙うための確認だったと分かった瞬間、過去の場面まで不気味に見えてくる。
第6位:佐吉舟|親友を殺した男を追い詰める海の亡霊
放送日:1980年8月9日
「佐吉舟(さきちぶね)」は、海を舞台にした後味の悪い怪談だ。
八丈島に住む漁師の太兵衛と佐吉は、幼い頃から仲の良い親友だった。しかし、二人とも船主の娘ヨネを好きになったことで、関係が少しずつ変わっていく。
ヨネとの結婚をめぐって漁の腕を競うようになった二人。ある日、佐吉の舟が大漁になる一方で、太兵衛の舟には魚がほとんど入らなかった。
やがて大波が押し寄せ、佐吉の舟が転覆する。佐吉は太兵衛に助けを求めるが、太兵衛はヨネを諦めるよう条件を突きつけ、拒否された佐吉を櫂で殴って海へ沈めてしまう。
その後、太兵衛が再び漁に出ると、死んだはずの佐吉が現れる。青白い顔をした佐吉は、太兵衛に柄杓を貸してほしいと頼む。
太兵衛が柄杓を渡すと、佐吉は海水を舟の中へ入れ始める。どれだけ謝っても止まらず、舟は沈没。太兵衛も海に沈んでしまう。
幽霊の復讐という怪談の形を取っているが、本当に恐ろしいのは親友を殺してしまった太兵衛の欲望だ。愛情と嫉妬が人間を変え、最後には自分自身を破滅させる。
第7位:おいてけ堀|のっぺらぼうより怖い最後の一人
放送日:1976年7月3日・1991年6月1日
「おいてけ堀」は、江戸の本所七不思議として知られる怪談をもとにした作品だ。
堀で魚を釣っていた男が、帰ろうとした瞬間、水辺から「おいてけ」という不気味な声を聞く。魚を置いていけという声に恐れをなした男は、その場から逃げ出す。
1991年放送版では、帰り道に狐の面をつけた女性が現れ、魚を置いていくように求める。男が拒否すると、女性は面を外し、のっぺらぼうの顔を見せる。
さらに逃げ込んだ先の屋台の店主や妻までもが、のっぺらぼうになっている。
ところが、こうした出来事の多くは、博打ばかりして働かない男を改心させようと、幼なじみが仕組んだものだった。
安心したのも束の間、最初に出会った狐面の女性だけは、仕掛け人も知らない本物の怪異だったことが判明する。
一度安心させてから、最後に本物の怪異を残す。この二段構えの演出が、見終わった後にも恐怖を引きずらせる。
【徹底比較】三本枝のかみそり狐・飯降山・吉作落としは何が違う?
特に検索されることの多い三作品は、同じ恐怖回でも怖さの方向性が大きく異なる。
三本枝のかみそり狐は錯覚と罪悪感、飯降山は欲望と信仰の崩壊、吉作落としは孤独と絶望が中心にある。物語の構造を比較すると、それぞれがトラウマ回として記憶される理由が見えてくる。
| 作品名 | 放送日 | 恐怖の中心 | 後味・特徴 |
|---|---|---|---|
| 三本枝のかみそり狐 | 1991年8月31日 | 狐の化かし・思い込み | 罪悪感と不気味な結末 |
| 飯降山 | 1994年8月27日 | 人間の欲望・信仰の崩壊 | 救いの少ない心理的恐怖 |
| 吉作落とし | 1988年10月29日 | 孤独・事故・絶望 | 現実に起こりそうな悲劇 |
| 十六人谷 | 1983年12月3日 | 禁忌・山の怪異 | 残酷な描写と最後の反転 |
| 牛鬼淵 | 1978年3月11日 | 妖怪・警告の無視 | 正体が明かされる恐怖 |
| 佐吉舟 | 1980年8月9日 | 嫉妬・殺人・亡霊 | 因果応報の悲劇 |
| おいてけ堀 | 1976年7月3日・1991年6月1日 | 怪異・のっぺらぼう | 安心した後に残る不気味さ |
怪異が怖いのか、人間が怖いのか
三本枝のかみそり狐は、正体の分からない相手を勝手に決めつける人間の危うさを描いている。
飯降山は、神仏から与えられた恵みを独占しようとする人間の醜さが中心だ。怪異よりも人間の心理に恐怖の重点が置かれている。
吉作落としは、そもそも怪異が存在しない。自然の厳しさと、助けが届かない状況だけで恐怖を成立させている。
この三作品を見比べると、『まんが日本昔ばなし』が単なる妖怪アニメではなかったことが分かる。人間の行動や判断そのものを恐怖の原因にできることが、この番組の奥深さだ。
【怪談の真相】耳なし芳一・船幽霊・柄杓にまつわる誤解を検証
耳なし芳一は1975年開始の番組の作品なのか?
「耳なし芳一」も怖い昔話として検索されることが多いが、ここには番組の混同がある。
琵琶の名手・芳一が平家の亡霊たちに招かれ、寺の僧侶から身体に経文を書いてもらうという物語は、小泉八雲の怪談として広く知られている。
実際にテレビ東京の公式番組情報には、2015年7月19日放送の『ふるさとめぐり 日本の昔ばなし』第171回に「耳なし芳一」が掲載されている。
したがって、1975年から1994年まで放送された旧作『まんが日本昔ばなし』と、後年の『ふるさとめぐり 日本の昔ばなし』は区別する必要がある。
「昔ばなし」という名前が共通しているため、別シリーズの放送回まで同じ番組の作品として紹介されることがあるのだ。
佐吉舟と船幽霊の柄杓にはどんな関係がある?
佐吉舟の恐怖を理解するうえで重要なのが、日本各地に伝わる船幽霊の伝承だ。
船幽霊とは、海で亡くなった人々などが幽霊となって現れるという海上の怪異である。地域によって姿や伝承内容は異なるが、特徴的なのが「柄杓を貸してくれ」と求めてくる話だ。
国際日本文化研究センターの怪異・妖怪伝承データベースには、1931年の高知県の記録や1952年の佐賀県の記録など、柄杓を貸すよう求める船幽霊の伝承が収録されている。
伝承では、普通の柄杓を渡すと海水を舟に入れられて沈められるため、底を抜いた柄杓を渡すとよいとされる。
岡山県立図書館のレファレンス協同データベースでも、船幽霊が柄杓を求め、底の抜けた柄杓でなければ舟を沈められるという民俗伝承が紹介されている。
佐吉舟では、この民俗的な恐怖の仕組みが復讐譚に取り入れられている。亡霊が柄杓を求めるという何気ない行為が、舟を沈めるための恐ろしい仕掛けに変わるのだ。
おいてけ堀とのっぺらぼうは別々の怪談なのか?
おいてけ堀は、江戸の本所七不思議の一つとして知られる怪談だ。魚を釣った人間に水辺から声がかかるという話を中心に、さまざまな異伝が存在する。
のっぺらぼうが登場する話は、そのバリエーションの一つである。声だけで恐怖を与える話から、実際に顔のない人物が姿を現す話まで、伝承の形は一つではない。
1991年のアニメ版では、狐面の女性や屋台の店主、妻までがのっぺらぼうになるという演出が加わっている。
こうした複数の怪談モチーフを組み合わせることで、昔ながらの伝承にアニメ独自の意外性が生まれている。
【専門分析】まんが日本昔ばなしの怖さの理由は?今見てもトラウマになる5つの特徴
1. 子ども向けの絵柄と残酷な物語のギャップ
番組の基本的な絵柄は親しみやすく、語り口も落ち着いている。しかし、物語の内容は必ずしも穏やかではない。
赤ん坊が火に投げ込まれる、仲間が次々と命を落とす、絶壁で人間が追い詰められる。こうした出来事が、特別な警告もなく物語の中で起きる。
視聴者は、安心して見ていたはずの作品の中で、突然予想外の残酷な展開に直面する。この落差が恐怖を強くする。
2. 市原悦子と常田富士男の語りが作る臨場感
『まんが日本昔ばなし』を語るうえで欠かせないのが、市原悦子と常田富士男の存在だ。
二人はナレーションだけでなく、老人、若者、女性、子どもなど、さまざまな人物を声で演じ分けた。
大げさな叫びや過剰な演技に頼らず、淡々と物語を進める語りは、かえって不気味な印象を残すことがある。
視聴者が想像する余地を残しながら、恐ろしい出来事を語っていく。この独特の距離感が、作品の怖さを引き立てている。
3. 山や海など、逃げ場のない自然が恐怖を生む
怖い回の舞台には、山奥、深い谷、暗い竹やぶ、夜の海などが多い。
現代の都市生活では、危険を感じたら助けを求めたり、明るい場所へ逃げたりできる。しかし、昔話の登場人物たちには、そうした選択肢がほとんどない。
吉作落としでは山の反響が助けを求める声をかき消し、十六人谷では山中の禁忌を破ったことが仲間たちの命を奪う。
自然そのものが、人間の力ではどうにもならない恐怖の舞台になっている。
4. 怖い結末の後に説明しきれない余白が残る
恐怖回の多くは、怪異の正体をすべて説明して終わるわけではない。
三本枝のかみそり狐では、最後の和尚についても不気味な解釈が生まれている。飯降山では、尼僧の証言を信じるべきかという疑問が残る。
おいてけ堀では、仕掛けだったはずの怪異に本物が混じっている。
こうした説明しきれない部分が、視聴後も想像を刺激し続ける。
5. 昔話特有の因果応報と理不尽さが共存している
昔話には、悪いことをした人間が罰を受けるという教訓的な構造がよく見られる。
佐吉舟では友人を殺した太兵衛が亡霊に報復され、牛鬼淵では年寄りの忠告を軽視した若者が命を落とす。
一方、吉作落としのように、悪人とはいえない人物が悲劇に巻き込まれる作品もある。
正しい行動をしていれば必ず助かるわけではない。この理不尽さも、現代の視聴者に強い印象を残す理由だ。
どの作品から見るべき?怖さのタイプ別おすすめ
怖い話を探している人は、自分がどの種類の恐怖を求めているかで作品を選ぶとよい。
- 心理的な恐怖が好き:「三本枝のかみそり狐」「飯降山」
- 現実に起きそうな悲劇が怖い:「吉作落とし」
- 妖怪や怪物の恐怖を味わいたい:「牛鬼淵」「十六人谷」
- 幽霊や因果応報の怪談が好き:「佐吉舟」
- 最後に驚かされる話が好き:「おいてけ堀」
小さな子どもに見せる場合は注意も必要だ。特に「三本枝のかみそり狐」「十六人谷」「飯降山」は、残酷な描写や心理的に重い展開があるため、怖い映像が苦手な子どもには向かない場合がある。
【よくある質問】まんが日本昔ばなしの怖い話に関するFAQ
Q1:まんが日本昔ばなしで一番怖い話は何ですか?
A1:代表的な最恐候補は「三本枝のかみそり狐」「飯降山」「吉作落とし」です。狐の化かしによる罪悪感、人間の欲望、逃げ場のない絶望と、それぞれ異なる恐怖があります。
Q2:三本枝のかみそり狐は何年に放送されましたか?
A2:1991年8月31日に放送されました。彦兵衛という若者が狐を疑ったことで、赤ん坊をめぐる恐ろしい出来事に巻き込まれる物語です。
Q3:飯降山が怖いと言われる理由は何ですか?
A3:三人の尼僧が食べ物を独占しようとする欲望によって、仲間を崖から突き落としていく展開が描かれるためです。信仰と人間の醜い欲望が対照的に描かれ、さらに証言の真偽をめぐる解釈も恐怖を深めています。
Q4:吉作落としは実話ですか?
A4:アニメでは大分県に伝わる昔話として描かれています。岩茸採りの青年が崖に取り残される物語ですが、アニメの出来事そのものを実際に起きた事故と断定することはできません。
Q5:十六人谷はどんな話ですか?
A5:山中の柳の木を切った木こりたちが、謎の女性によって次々と命を奪われる怪談です。最後に老人となった弥助にも恐ろしい運命が訪れる構成が特徴です。
Q6:耳なし芳一も、まんが日本昔ばなしの作品ですか?
A6:テレビ東京の公式情報では、2015年7月19日放送の『ふるさとめぐり 日本の昔ばなし』第171回に収録されています。1975年開始の旧作シリーズとは区別が必要です。
Q7:佐吉舟に登場する柄杓は何を意味していますか?
A7:船幽霊の伝承に登場する柄杓を借りる怪異と関係しています。亡霊が柄杓を使って舟に水を入れ、沈没させるという恐ろしい仕掛けです。
Q8:まんが日本昔ばなしは2026年も見られますか?
A8:2026年3月20日からキッズステーションでデジタルリマスター版の放送が始まりました。発表された編成は平日朝・夕方・夜の3つの時間帯です。現在の放送作品や編成はチャンネルの最新番組表で確認できます。
まとめ:まんが日本昔ばなしの怖さは人間の心と想像力にある
『まんが日本昔ばなし』の恐怖回が、放送終了から長い年月を経ても語り継がれている理由は、単に妖怪や幽霊の姿が怖いからではない。
「三本枝のかみそり狐」は思い込みと罪悪感、「飯降山」は欲望と信仰の崩壊、「吉作落とし」は孤独と絶望を描いている。さらに「十六人谷」「牛鬼淵」「佐吉舟」「おいてけ堀」には、禁忌、因果応報、亡霊、正体不明の怪異といった日本の怪談に通じる恐怖が詰まっている。
特に注目したいのは、作品によって怖さの種類がまったく違うことだ。妖怪が出てくる話だけでなく、現実に起こりそうな事故や、人間の欲望が引き起こす悲劇まで、幅広い恐怖を短い物語の中に描き切っている。
2026年のデジタルリマスター放送は、こうした作品を新しい世代が見直す機会にもなった。
懐かしいアニメとして楽しむだけでなく、民俗学、怪談、心理描写、映像演出という視点から見直すと、『まんが日本昔ばなし』の奥深さはさらに増す。子どもの頃に怖くて目をそらした一話を、今度は大人の視点でもう一度見てみると、当時とは違う恐怖に気づくかもしれない。
本当に怖い昔話とは、見終わった瞬間に終わる話ではなく、画面が消えた後も頭の中に残り続ける話なのだ。
主な参照資料・事実確認
- 番組の放送期間・作品概要:オールシネマの作品データベース。
- 2026年のデジタルリマスター放送:アニマックスブロードキャスト・ジャパンの2026年2月12日付公式発表。
- 各恐怖回の放送日とあらすじ:マグミクスの2023年・2026年の特集記事。
- 飯降山の民話的背景・いがらしみきおの演出・解釈の変遷:吉田悠軌によるウェブムーの解説。
- 耳なし芳一の放送シリーズの区別:テレビ東京の公式番組情報。
- 船幽霊と柄杓の伝承:国際日本文化研究センターの怪異・妖怪伝承データベース、岡山県立図書館のレファレンス協同データベース。