日韓関係が悪化する最大の要因の一つが、歴史認識と領土をめぐる対立だ。
安全保障や経済で協力が進んでも、歴史問題が政治的な争点になると、首脳間の関係まで不安定になる。この構造を理解するには、主要な三つの問題を整理する必要がある。
1. 旧朝鮮半島出身労働者問題(徴用工問題)
徴用工問題は、日本統治下の朝鮮半島出身労働者をめぐる問題である。
日本政府は、1965年の日韓請求権・経済協力協定によって、両国間の財産・請求権問題は完全かつ最終的に解決されたとの立場を取っている。
一方、韓国では2018年に大法院(最高裁)が日本企業に損害賠償を命じる判決を下し、日韓間の大きな外交問題となった。
その後、韓国政府は2023年3月6日、韓国の財団が原告に判決金と遅延利息を支給する解決策を発表した。
日本政府は、この措置を日韓関係を健全な状態に戻すためのものとして評価した。
しかし、問題は完全に終わったわけではない。
外務省の外交青書2026によると、2025年12月にも韓国大法院で、日本企業に賠償を命じる同種の複数の判決が確定した。日本政府は従来の立場に基づいて韓国側に申し入れを行っている。
また、2025年11月時点で、韓国の財団による支払いを受けた元労働者は原告側の26名だった。韓国政府は引き続き原告の理解を得る努力を続けている。
この問題の本質は、単純な金銭支払いだけではない。
日本側は国家間の協定による法的解決を重視する一方、韓国側では被害を受けた個人の権利や歴史的責任を重視する議論が続いている。
国家間の合意と個人の被害救済をどう両立させるかが、現在も難しい課題となっている。
2. 日韓慰安婦問題と2015年合意
慰安婦問題も、長年にわたって日韓外交を左右してきた。
2015年12月28日、日韓外相会談で慰安婦問題に関する合意が成立した。
当時の日本政府は、元慰安婦の方々に対するおわびと反省の気持ちを表明し、韓国政府が設立する財団に日本政府の予算から10億円を拠出することを決定した。
韓国政府も、問題の最終的かつ不可逆的な解決を確認した。
しかし、その後、韓国内では合意が被害者の意思を十分に反映していないとの批判が起きた。
2017年に発足した文在寅政権は、合意に対する検証を行い、被害者の意思が十分に反映されていなかったとの立場を示した。和解・癒やし財団も解散に向けた手続きが進められた。
ここで重要なのは、日本政府と韓国側の一部の被害者・支援団体では、合意に対する評価が異なるという点だ。
日本政府は2015年の合意によって外交上の解決が確認されたと考えている。一方、韓国側では被害者の受け止めや歴史的責任の問題が残っている。
外交文書で合意しても、当事者の納得や社会的な受容が伴わなければ、問題が再燃する可能性がある。
3. 竹島問題は日韓関係の最大級の領土懸案
竹島問題は、両国の主権に関わる問題であり、歴史問題とは性質が異なる。
日本政府は竹島を島根県に属する日本固有の領土と主張している。1905年の閣議決定による島根県への編入などを、その歴史的・法的根拠として挙げている。
一方、韓国は竹島を「独島」と呼び、実効支配を続けている。
日本政府は韓国による占拠を不法占拠と位置付け、韓国側の議員の上陸や軍事訓練などに対して抗議してきた。
2025年にも竹島周辺での軍事訓練などをめぐり、日本政府が抗議したことが外交青書2026に記載されている。
竹島問題が難しいのは、単なる外交交渉上の条件ではなく、両国の主権と国民意識に直結することだ。
仮に首脳同士の関係が良好でも、領土に関する譲歩は国内政治で大きな反発を招く可能性がある。
そのため、経済や防衛では協力しながら、竹島問題では双方が自国の主張を維持するという状態が続いている。
【関係図・年表】日韓関係を左右する主要な出来事と協力分野

ここまでの内容を、国家間の関係という観点から整理する。
| 時期 | 出来事・関係者 | 日韓関係への影響 |
|---|---|---|
| 1965年 | 日韓国交正常化・請求権協定 | 外交・経済関係の基本的枠組みを形成 |
| 2015年 | 日韓慰安婦合意 | 外交上の解決を確認したが、韓国内で評価が分かれる |
| 2016年 | 日韓GSOMIA締結 | 北朝鮮関連の秘密軍事情報を保護・共有する枠組みを整備 |
| 2018年 | 韓国大法院の徴用工判決 | 日本企業への賠償命令をめぐり関係が悪化 |
| 2019年 | 輸出管理をめぐる対立・GSOMIA終了通告 | 経済と安全保障の両分野に摩擦が拡大 |
| 2023年 | 韓国政府の徴用工解決策・GSOMIA終了通告撤回 | 関係改善に向けた重要な転換点 |
| 2025年 | 李在明政権と石破政権による首脳交流 | シャトル外交と実務協議が進展 |
| 2026年1月・5月 | 李在明大統領と高市首相の首脳会談 | 安全保障・経済・先端技術で協力を拡大 |
| 2026年9月 | 日韓防衛相テレビ会談 | 防衛当局間の連携継続を確認 |
| 2026年10月30日 | 日米韓外相会合 | 安全保障・サプライチェーン協力を推進 |
| 2026年11月2日 | 第17回日韓次官戦略対話 | 北朝鮮問題と経済安全保障の連携を再確認 |
この年表から見えるのは、日韓関係が一直線に改善しているわけでも、悪化し続けているわけでもないということだ。
特に2019年は、輸出管理をめぐる対立とGSOMIA終了問題が結び付いた象徴的な時期だった。
一方、2023年には輸出管理政策対話が再開され、韓国が日本を輸出審査優遇国に復帰させ、日本も韓国をグループAに追加した。半導体関連3品目の輸出管理についても運用が見直された。
そして2026年には、首脳外交、防衛協議、日米韓外相会合、次官戦略対話が継続している。
これは、両国政府が対立を完全に解消できなくても、関係全体が崩れないように管理する必要性を認識していることを示している。
【なぜ日韓関係は悪化を繰り返すのか】対立を生む4つの構造
日韓関係が安定しにくいのは、単に国民感情が悪いからではない。外交、司法、国内政治、経済安全保障という複数の要因が重なっている。
1. 歴史問題に対する法的解釈が異なる
1965年の日韓請求権・経済協力協定をめぐっては、日本政府と韓国の司法判断の間に大きな隔たりがある。
日本側は国家間の法的解決を重視する。
一方、韓国では個人の請求権や被害者救済を重視する司法判断が存在する。
政府同士が外交的な合意をしても、司法判断や個人の権利をめぐる問題が残れば、再び対立する可能性がある。
2. 韓国の政権交代で外交方針が変化する
韓国では大統領の権限が強く、政権交代によって外交政策の重点が変化することがある。
文在寅政権では2015年慰安婦合意の評価が問題となり、尹錫悦政権では徴用工問題の解決策を通じた関係改善が進められた。
李在明政権は、国益を重視した実用外交を掲げながら、日本との協力を拡大している。
ただし、歴史問題への対応は国内世論や司法判断にも左右されるため、政権の意向だけで完全に管理できるわけではない。
3. 歴史問題は国内政治と結び付きやすい
日本でも韓国でも、歴史問題や領土問題は国民の感情に強く関わる。
政治家が相手国に譲歩したと受け止められれば、国内で批判を受けることがある。
そのため、首脳間で関係改善を進める場合でも、国内世論を意識した発言や政策調整が必要になる。
4. 安全保障と歴史認識では優先順位が異なる
北朝鮮のミサイル発射への対応では、情報共有と迅速な連携が必要になる。
一方、徴用工や慰安婦問題では、法的解釈や歴史的責任が焦点になる。
同じ国家間関係でも、分野によって必要な対応は違う。
このため、防衛協力が進んだからといって、歴史問題も解決したと判断するのは誤りだ。
逆に、歴史問題が悪化したからといって、防衛・経済協力まで無意味になったと判断するのも適切ではない。
【日本と韓国の今後】2026年以降に協力が進む分野と対立する論点
2026年11月現在の日韓関係を見ると、今後の協力には具体的な方向性が見えている。
協力が期待される5つの分野
① 北朝鮮への安全保障対応
核・ミサイル問題への対応、情報共有、日米韓の外交・防衛協力は、今後も重要な課題となる。
② 半導体・AI分野
日本の素材・製造装置関連技術と韓国の半導体産業には相互補完性がある。AIの普及によって半導体需要が拡大するなか、産業協力の余地は大きい。
③ 経済安全保障とサプライチェーン
特定の国や地域への過度な依存を避け、重要物資の安定供給を確保することは、両国共通の利益になる。
④ 少子高齢化・人口減少への対応
日本と韓国は、出生率の低下や高齢化、地方の人口減少などの課題を抱えている。政策や技術の共有には実際的なメリットがある。
⑤ 観光・文化・人的交流
2026年5月の李大統領の共同発表では、日韓の年間人的交流が約1,300万人に達したと紹介された。若年層の交流や地方都市への旅行も広がっている。
今後も対立が残る3つの問題
一方、次の問題については、短期間で解決する可能性は高くない。
- 徴用工問題:1965年協定の解釈と被害者救済をめぐる隔たり
- 慰安婦問題:2015年合意の評価と歴史認識の違い
- 竹島問題:領有権をめぐる双方の主張と韓国の実効支配
これらは首脳会談を何度開催しても、簡単に消える問題ではない。
重要なのは、解決できない問題があるからといって、解決可能な分野まで停滞させないことだ。
【プロの結論】韓国を敵か味方かで判断しないための5つの基準
日本が韓国と向き合う際には、感情的な評価よりも、実際の政策と行動を基準に判断する必要がある。
| 判断基準 | 注目するポイント |
|---|---|
| 安全保障 | GSOMIAの安定運用、北朝鮮情報の共有、防衛協力 |
| 国際法・外交 | 国家間合意の履行、司法判断への政府の対応 |
| 経済 | 貿易の安定、企業活動、輸出管理の透明性 |
| 領土・主権 | 竹島問題への対応、日本の主張に対する外交姿勢 |
| 政治的安定性 | 政権交代後も政策の継続性が保たれるか |
この基準を使えば、韓国の行動を分野別に評価できる。
例えば、北朝鮮への情報共有では協力相手として評価できる一方、歴史問題では日本政府の立場に照らして厳しい対応が必要な場面もある。
経済では企業間の利益を考慮しながら、輸出管理や重要技術の保護については冷静な判断が求められる。
国家としての韓国政府の政策と、韓国の一般市民の考え方を混同しないことも重要だ。 政府間の対立を、韓国人全体への敵意に置き換えてはならない。
2026年11月3日に李大統領が日本との経済協力の拡大を呼び掛けたことや、翌2日の次官戦略対話で両国が連携を確認したことは、実務的な協力を重視する現在の流れを示している。
【韓国は敵か味方か】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:韓国は日本にとって敵国なのですか?
韓国は日本の敵国ではない。日本政府は韓国を重要な隣国・協力パートナーと位置付けている。北朝鮮問題や経済安全保障では協力関係にある一方、歴史・領土問題では対立が残っている。
Q2:韓国は日本の軍事的な同盟国ですか?
日本と韓国は直接の相互防衛条約を結んでいない。両国はアメリカを共通の同盟国とし、日米韓の安全保障協力やGSOMIAを通じて連携している。
Q3:2026年の日韓関係は改善していますか?
外交・防衛・経済面では改善と協力の進展が見られる。2026年1月と5月の首脳会談、9月の防衛相会談、10月30日の日米韓外相会合、11月2日の次官戦略対話などがその具体例だ。ただし、徴用工、慰安婦、竹島問題は引き続き懸案となっている。
Q4:李在明大統領は反日政策を進めているのですか?
一律に反日政策と評価するのは正確ではない。李在明政権は国益を中心とする実用外交を掲げ、日本とのシャトル外交や先端技術・経済安全保障協力を進めている。一方、歴史問題については韓国側の立場を維持している。
Q5:日本は今後、韓国と距離を置くべきですか?
全面的に距離を置くことは、日本の安全保障や経済にとって合理的とは限らない。協力できる分野では連携し、領土や歴史認識、重要技術の保護など譲れない問題については、外交・法的手段を通じて毅然と対応することが現実的だ。
まとめ:韓国は敵か味方か、その答えは日本の国益から考える
2026年の日韓関係を検証すると、韓国は日本にとって敵でも、無条件に信頼できる味方でもないことが分かる。
北朝鮮の核・ミサイル問題では、日韓が協力する必要性は極めて高い。日米韓安全保障協力、GSOMIA、半導体を中心とする経済関係、サプライチェーンの強化など、両国が協力することで得られる利益は大きい。
一方、徴用工問題、慰安婦問題、竹島問題は未解決のままだ。歴史認識や領土に関する日本の立場を曖昧にしてまで、関係改善を急ぐ必要はない。
2026年11月現在、李在明大統領と高市早苗首相の間ではシャトル外交が続き、外交・防衛当局間の協議も行われている。両国には、対立を管理しながら協力を積み上げる余地がある。
日本に求められるのは、韓国を感情だけで敵視することでも、外交上の協力を理由にすべての問題を容認することでもない。
安全保障では協力し、経済では相互利益を追求し、歴史・領土問題では国益と法的立場を守る。
それぞれの分野を切り分けて、韓国政府の実際の行動を評価すること。それが、日本にとって最も現実的な日韓外交の判断基準となる。