愛知県名古屋市緑区の歴史ある酒蔵、株式会社萬乗醸造が醸す「醸し人九平次(かもしびとくへいじ)」。かつて日本酒が国内の消費低迷に喘いでいた時代、パリの三つ星レストランのシェフや世界最高峰のソムリエたちを驚嘆させ、日本酒のグローバルスタンダードを打ち立てた銘柄です。伝統的な職人技に敬意を払いながらも、ワインの世界最高峰であるブルゴーニュ地方に自ら蔵を構えるなど、その歩みは常に既存の酒造りの枠組みを刷新し続けています。
日本酒通のみならず、普段はワインを好む層からも圧倒的な支持を集める背景には、どのような哲学と技術的裏付けが存在するのでしょうか。代表作である「別誂(べつあつらえ)」や「eau du desir(希望の水)」に込められた設計思想から、定価で購入できる正規取扱店(特約店)の見極め方、そして料理とのマリアージュまで、取材データと現場検証をもとにその真価を余すところなく解き明かします。
【人気の真相】なぜ醸し人九平次は世界最高峰のレストランを魅了するのか?

日本酒といえば長年「甘口か辛口か」という極めて単純な二元論で語られがちでした。しかし、萬乗醸造が提示したのは「立体的な酸味」「ミネラル感」、そして「心地よいほろ苦さとエレガントな余韻」という、極めてモダンな味覚の構造です。このパラダイムシフトこそが、フランスをはじめとする世界各国のガストロノミー界に衝撃を与えた最大の要因といえます。
蔵元である久野九平治(くの・くへいじ)氏と、醸造責任者として腕を振るってきた佐藤彰洋氏らのチームは、1990年代後半から徹底した品質改革に着手しました。それまでの大量生産・下請け体質から脱却し、全量を特定名称酒、とりわけ純米大吟醸を中心とした高精白の手造りへと舵を切ったのです。当時の業界内では「酸が際立つ酒は日本酒らしくない」と異端視されることも少なくありませんでした。しかし、九平治氏は「酸こそが料理の脂を切り、次のひと口を誘うエネルギーになる」という確信を曲げませんでした。
2000年代半ば、単身パリへ渡り現地のトップソムリエたちへ直接アプローチを敢行。ワイン文化の成熟した土壌において、そのエレガントな酸と繊細な旨味は見事に評価され、名だたる三つ星レストランのワインリストに名を連ねる快挙を達成しました。単なる「和食の引き立て役」にとどまらず、バターやクリーム、ハーブを多用する西洋料理とも堂々と渡り合えるポテンシャルを証明した瞬間でした。
【種類一覧と味わい】別誂・eau du desir・humanの決定的な違いを徹底比較
醸し人九平次のラインナップは、それぞれ明確なコンセプトと異なる表情を持っています。主要銘柄のスペック、味わいの特徴、定価相場を以下の比較表に整理しました。
| 銘柄名 | 原料米 / 精米歩合 | 公式定価(720ml税込) | 味わいの特徴・推奨シーン |
|---|---|---|---|
| 別誂(べつあつらえ) | 兵庫県黒田庄産山田錦 35%精米 |
約5,500円 | ブランドの最高峰。シルクのような舌触りと南国果実を思わせる高貴な香り。特別な日の乾杯やギフトに最適。 |
| human(ヒューマン) | 兵庫県黒田庄産山田錦 45%精米 |
約3,300円 | 「男でも女でもない、人間すべてへ」。別誂の気品とeau du desirの躍動感を兼ね備えた極めてバランスの良い一本。 |
| eau du desir(希望の水) | 兵庫県黒田庄産山田錦 50%精米 |
約2,200円 | 九平次のフラッグシップにしてエントリーモデル。瑞々しい柑橘系の酸とフレッシュなミネラル感が際立つ。 |
| 黒田庄に生まれて | 兵庫県西脇市黒田庄産山田錦 50%精米 |
約2,750円 | 自社栽培米のテロワールを前面に押し出した意欲作。大地の力強さと米本来の透明感ある旨味が共存。 |
| 協田(きょうでん) | 兵庫県西脇市黒田庄産山田錦 非公開 / 自社栽培 |
約4,400円 | 単一区画(モノポール)の思想を追求。畑ごとの個性を凝縮した、極めて緻密でミネラリティあふれる逸品。 |
看板商品である「純米大吟醸 別誂」は、35%まで磨き抜かれた山田錦の純度を極限まで引き出し、メロンや白桃を連想させる芳醇な香りと、驚くほど滑らかなテクスチャーを誇ります。一方、「eau du desir」(フランス語で「希望の水」)は、グレープフルーツやライムのような爽やかな柑橘香と心地よい微炭酸(ガス感)が特徴的で、食前酒からメイン料理まで幅広く寄り添う万能性を備えています。
ドメーヌ構想とブルゴーニュ進出|萬乗醸造が切り拓く「米とブドウ」の越境
日本酒業界において「原料の米は農協などから仕入れる」のが一般的な商慣習でした。しかし萬乗醸造は、ワイン造りの基本である「テロワール(風土・土地の個性)」と「ドメーヌ(自社畑・自社栽培醸造)」の思想を日本酒に持ち込みました。
2010年、最高峰の山田錦の産地として知られる兵庫県西脇市黒田庄町(くろだしょうちょう)に農業法人を設立。蔵人自らが現地に移住し、土壌を耕し、稲を育てるところから酒造りを開始しました。この取り組みから生まれたのが「黒田庄に生まれて」や「協田」といった、畑の区画や気候変動をボトルに刻み込むシリーズです。田んぼごとに異なる土壌組成や日照条件が、仕込み水や酵母と反応し、唯一無二の味わいを生み出しています。
さらに萬乗醸造の挑戦は海を越えました。フランス・ブルゴーニュ地方の銘醸地モレ・サン・ドニ(Morey-Saint-Denis)に土地を購入し、醸造所「Domaine Kuheiji(ドメーヌ・クヘネジ)」を設立。日本酒の蔵元が本場フランスでブドウ栽培からワイン醸造までを一貫して手がける前代未聞のプロジェクトを実行に移したのです。
「米を醸すことも、ブドウを醸すことも、自然の恵みを液体に移し替えるという本質において何ら変わりはない」という久野九平治氏の信念は、日本酒の醸造技術にもフィードバックされ、酸のキレや樽熟成へのアプローチなど、さらなる進化をもたらしています。
【実態検証】味の特徴とリアルな評判|SNS・愛飲者の生の声に見る真実
実際に醸し人九平次を口にした愛飲者や飲食業界のプロフェッショナルは、どのような評価を下しているのでしょうか。各種レビューサイトやSNS、専門誌の講評を多角的に分析すると、際立った共通項が浮かび上がってきます。
好意的な意見として最も多く見られるのは、「日本酒特有の重さやアルコール臭がなく、白ワインのようにスルスルと飲める」「開栓したての微小なピチピチ感と、爽快な酸味がたまらない」という声です。従来の濃醇甘口やクラシックな辛口に苦手意識を持っていた若い世代や女性層が、「九平次をきっかけに日本酒の虜になった」と語るケースは枚挙にいとまがありません。
一方で、伝統的な燗酒や昔ながらの生酛(きもと)造り特有の野太い米の旨味、あるいは常温でどっしりとしたコクを好むクラシック派の飲み手からは、「酸が前に出すぎていて日本酒を飲んでいる気がしない」「冷やして飲む設計のため、冬場に燗で楽しむには向かない」といった指摘も見受けられます。この反応の差は、九平次が目指す「現代の食卓におけるエレガンス」という明確なポジショニングの裏返しでもあります。
一般に知られていない盲点とネットの誤解|定価で買うための特約店選びと注意点
醸し人九平次を最高品質で楽しむためには、購入ルートと提供環境に関する正しい知識が欠かせません。知っておくべき決定的な注意点がいくつか存在します。
第一に、ネット通販における不当なプレミアム価格(転売)への注意です。人気銘柄であるがゆえに、大手ECモールなどでは定価の1.5倍から2倍以上の価格で出品されている事例が散見されます。しかし、醸し人九平次は熱や光に極めてデリケートな無濾過生酒や繊細な原酒が多く、温度管理が不十分な非正規転売業者から購入すると、本来の鮮烈なアロマや瑞々しい酸味が損なわれているリスクがあります。
購入の際は、萬乗醸造と直接契約を結んでいる正規特約店(取扱店)を利用することが絶対条件です。東京都内であれば「はせがわ酒店」各店や「かがた屋酒店」、発祥地である名古屋市内であれば「秋田屋」系列や地域密着の有力地酒専門店などが代表的です。これらの正規店では、徹底した冷蔵管理のもと、適正な定価で販売されています。
第二に、「開栓後の変化」に対する誤解です。「日本酒は開けたらすぐに飲み切らなければ劣化する」と思われがちですが、九平次は高い酸度と強固な骨格を持っているため、酸化に対する耐性が極めて高いのが特徴です。開栓初日のフレッシュなガス感を楽しんだ後、2日目、3日目と空気に触れさせることで、閉じていた香りが開き、米のまろやかな甘みが豊かに広がっていく経時変化を堪能できます。
【プロの結論】醸し人九平次を最高に愉しむペアリングとおすすめの選び方
醸し人九平次のポテンシャルを100%引き出すための実践的なアプローチをまとめました。
1. 器と温度の最適解
小さなお猪口(おちょこ)で飲むのは避けるべきです。すぼまりのある中型の白ワイングラス(ブルゴーニュ型やリースリング型)に注ぎ、香りの広がり空間を確保してください。提供温度は、キンキンに冷やした5℃前後からスタートし、グラスの中で10℃〜12℃程度まで温度が上がっていく過程で立ち上る複層的なアロマの変化を観察するのが理想的です。
2. 料理とのペアリング指針
刺身や寿司といった繊細な和食はもちろんのこと、以下のような洋食・多国籍料理との相乗効果は特筆すべきものがあります。
- eau du desir × 白身魚のカルパッチョ・レモンハーブ仕立て:柑橘を思わせる酸がオリーブオイルのコクと調和し、魚の甘みを引き出します。
- human × 豚肉のローストや鴨肉のコンフィ:きめ細やかな酸と米の旨味が、肉の脂分を包み込みながら後味を美しく流します。
- 別誂 × 帆立貝のムニエル・ブールブランソース:濃厚なバターソースのリッチさに負けない芳醇なアロマと長い余韻が重なり合います。
- 黒田庄シリーズ × パルミジャーノ・レッジャーノやハード系チーズ:発酵由来のアミノ酸同士が響き合い、大地のミネラル感を強調します。
【プロの結論】おすすめできる人・慎重になるべき人の判断基準
【選ぶべき人】ワインが好きで日本酒の新たな魅力を体験したい方、フレンチやイタリアンに合わせる日本酒を探している方、記念日や上質な会食の乾杯酒を求めている方。
【慎重になるべき人】熱燗でぐいぐい飲む昔ながらの辛口本醸造を求めている方、甘みや酸味が控えめで極めてニュートラルな「淡麗辛口」だけを好む方。
【醸し人九平次】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:醸し人九平次はどこで定価購入できますか?名古屋や東京の取扱店は?
A1:萬乗醸造の公式サイトに記載されている全国の正規特約店で購入可能です。東京都内では「はせがわ酒店(東京駅・麻布十番・表参道など)」「かがた屋酒店」、名古屋市内では名鉄百貨店や高島屋のリカー売り場、老舗地酒専門店などで定価販売されています。蔵元での直接小売は原則行っていないため、正規特約店での購入をおすすめします。
Q2:初心者へのギフトや最初に飲む一本として最適な銘柄はどれですか?
A2:まずはフラッグシップである「純米大吟醸 eau du desir(希望の水)」が最もおすすめです。価格帯も2,000円台前半と手頃でありながら、九平次を象徴する透明感、爽快な酸、フレッシュなガス感を存分に体感できます。特別なギフトや目上の方への贈り物には、最高峰の「純米大吟醸 別誂」が間違いのない選択です。
Q3:保存方法と美味しく飲める賞味期限の目安は?
A3:繊細なアロマと品質を保持するため、購入後は速やかに冷蔵庫(できれば5℃以下の冷暗所)で縦置き保管してください。未開栓であれば製造年月から半年〜1年程度は美味しく召し上がれます。開栓後も冷蔵保管を徹底すれば、1週間程度は酸化による味わいの変化(開き)を楽しみながら飲むことができます。
Q4:フランスで造られているワイン「Domaine Kuheiji」は日本でも買えますか?
A4:はい、日本国内の一部特約店や萬乗醸造の公式オンライン企画などで数量限定リリースされることがあります。ブルゴーニュのテロワールを実直に表現したピノ・ノワールやシャルドネは非常に生産量が少なく希少ですが、日本酒造りで培われた緻密な醸造美学が反映された注目の逸品です。
まとめ:日本酒の未来を体現する一本を選ぶために
萬乗醸造が手がける「醸し人九平次」は、単なるプレミアム日本酒という枠にとどまらず、伝統と革新、東洋と西洋の醸造哲学が結実したマスターピースです。米の栽培から始まり、緻密に計算された酸とミネラルの調和、そして白ワイングラスで楽しむモダンな提供スタイルに至るまで、すべての工程に妥協なき論理が貫かれています。
ネット上の不当な高値に惑わされることなく、信頼できる正規特約店で適正な一本を手に入れ、グラスに注いでみてください。口に含んだ瞬間に広がるフレッシュな息吹と長い余韻が、日本酒の持つ無限の可能性を雄弁に物語ってくれるはずです。